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 弓削と瑠維が璃音にふるいつきたくなるのを必死で堪えているのを知らず、璃音は胸に手を当てて、一生懸命自己暗示をかけている。 「龍嗣は…おとうさん。  今日だけ…おとうさん…おとうさん…。  人前でベロチューは駄目、人前はベロチューは我慢、我慢。  えっちぃキスは、夜までお預け…。  龍嗣は…おとうさん。  今日だけ…おとうさん…おとうさん…。  人前でベロチューはしちゃ駄目、人前はベロチュー我慢。  えっちぃキスは、夜までお預け…」 『おいっ、そりゃ、どういう自己暗示なんだよ…っ!!』 『いっそ、瑠維を車から振り落として、璃音様を拉致ってやりたくなりますねぇ…』  三人が三人とも、おかしな状態になっているのを、助手席に座った猫が冷ややかに見ている、というよりは、引いている。 「へ………、変な人達…っ」  龍嗣や弓削、瑠維などが恥ずかしい思いをしないように心掛けている璃音は、学校では比較的大人しくしているのだ…が。  穏やかで、子供子供しているという印象の中にも、やはり艶めいたものは滲み出る。  担任の日下部からは、「水上君は、なにか苦しい思いでもしてるんですか?」…と、連絡が来たりもしていて、まさか「後見人兼、義父の龍嗣と恋愛関係にあり、体を繋げられない事で焦れ焦れしてるんです」とも言えない。  なので、「ご両親が亡くなって一年になりますから、色々思う所があるのでは…?気持ちが安定するよう、周囲の者でフォローをするよう心掛けます」と、弓削が返事をしておいた。  元々穏やかで、争い事を好まない子供なので―――しかも、成長が遅れまくっている分、担任の目に止まりやすい。  璃音自身、余計な事を口走ったり、ボロを出さないように気を張ってはいる。  ただ、最近の焦れっぷりを見るにつけ、いつか露呈してしまうのではないかと弓削も瑠維も気が気ではない。  いっそ、大事になってついでに龍嗣との仲も壊れてしまえと瑠維は願っているが、そんな簡単なものではないと弓削は思っている。  龍嗣を生涯唯一の番いと固めてしまった以上、引き剥がすのはもう無理なのだ。  龍嗣という半身を失えば、璃音は生きてはいられない。  鬼夜叉が講じた保険…六人の者達を、今更璃音が受け入れる筈もない。  引き剥がす事は出来ないのが分かっているだけに、弓削は注意深く璃音を見守り、瑠維が暴走しないように気をつけているのだ。

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