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瑠維がミルクティーを煎れているのを、璃音はのんびり見ていた。
自分の様にメカに詳しくないが、瑠維の舌はかなり繊細で精密だ。
一度食べたものの味を再現したり、なんてことのない材料でフルコースを作ったりできる。
それも、水上の血ゆえのものなのだと思うのだが…瑠維は自分には何も才が無いと思い込んでいるように見えた。
『瑠維は、自分が持たざる者だと思っているが、ある意味人間が生きて行く上で、一番欠かせない所に才がある。
それを、才と思わないあたり、晶の息子だな。
肝心な所を見落としているんだから…』
母は、瑠維の事をそう言っていた。
『経過が良くて退院出来たら、調理師免許を取ればいい。
栄養学を学んで、管理栄養士の資格を取ってもいい。
家の一部を改造して、レストランを開業するのも有りだよね。
瑠維の料理を食べて、色んな人に喜んで貰えたらいいな…』
そう言っていたのは父だった。
いつまでも伴侶選びの甘噛みをしない瑠維を、父は心配していた。
そして、母は。
最悪の事態を想定していた…。
近親噛みをしているのではないかと…。
弓削から、瑠維が禁忌とされていた近親噛みをしていたと密かに聞かされ、少なからず璃音は動揺したのだ。
こんな小さくて、浮世離れした現実味のない自分を可愛がっている兄が、近親噛みをする程の執着をする筈がない。
最初はそう思っていたのだが…。
幼い頃からの瑠維を思い出すにつれ、俄かに現実味を伴ってくる。
何より、璃音と瑠維の指が微かに触れた瞬間など、反応が同じなのだ。
龍嗣に触れられて、体の芯が甘く疼く自分と…。
『瑠維………、やっぱり面白くないだろうな…。
もしも僕だったら、龍嗣が誰か別の人と番いになるのを、見てはいられないもの…。
きっと、僕なら…耐え切れなくて死んじゃうかもしれない』
瑠維に応える事が出来ない自分が堪らなく傲慢にさえ思えて、璃音は下を向く。
だが。
瑠維が自分に執着しているとするなら、もう一つの事象も原因が浮き彫りになってくる。
最も考えたくない結論を伴って…。
『瑠維は、やっぱり…。
やっぱりあの事に関わっているのかな…。
でも…何で?
そうしてまで僕に執着する為に、そこまでしなくちゃいけない理由がわかんない…』
思考が停止していく。
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