208 / 454
・
小柄な黒猫メイドが190センチ越えの男性に抱きつく。
なんだか微妙な光景に、周囲の人間が凍り付いた。
「……あ」
周囲の視線に気づいて、璃音が体を離す。
「あ、あはは…。
何してんだろ、僕…」
「なかなか可愛らしいじゃないか。
あんまり違和感が無いから、かなり驚いたぞ?」
苦笑いしている璃音の頭を優しく撫でて、龍嗣がフワリと笑った。
「変じゃない? おかしくない?」
スカートをヒラヒラさせてみる。
「怖いくらい似合ってる」
「ホント。可愛いわよ?凄く似合ってるわ」
「全然おかしくない。
似合ってる、似合ってる」
口々に褒められ微妙な表情をする璃音だが、省吾達に促されて龍嗣達を案内する。
その様子を見ていた白川は、先日は揺らいでいた璃音の瞳が落ち着き、ある程度精神的にも安定したのだと感じ取った。
足腰にふらつきもなく、背も僅かながら伸びている事も、龍嗣との関係自体がうまく作用している事を物語っている。
『結果オーライという事かな?』
今まで押さえ込んでいた分、龍嗣への感情の箍が緩んだのだろうが、一瞬で立て直したので良しとしよう…そう思う事にした。
カフェの中に入ると、龍嗣達に視線が集まった。
龍嗣の身長が高いのもあるが、周りにいる弓削達の整った顔立ちも人目をひく。
白川は、一歩引いて後ろについて行った。
「ここ、招待席だから座っててね」
璃音がパタパタと厨房に走って行くのだが、左右に尻尾が揺れて可愛らしい。
『ありゃ、反則だろ…』
小鳥遊が内心溜息をつく。
女の子にしか見えない容貌に、エクステンションで作ったツインテール、男性の萌えを刺激するメイド服とガーター付きハイソックスなど、いかにも『食べて』と言っているようなものだ。
ましてや、髪に結わえたリボンとスカートにつけた尻尾が、『猫を擬人化するとこうなる』というイメージそのままなのだ。
メイド服を手がけた依留と総一の徹底的な仕事っぷりには感心するが、一つ間違えば貞操の危機に繋がる。
セキュリティが万全な学園だからこそ、許されるコスチュームと言えるかもしれない。
『鬼夜叉そっくりの顔だから、余計に可愛くて押し倒したくなるじゃねーかっ!!
ああ、今すぐ突っ込みてえ…』
小鳥遊は衝動を必死で衝動を堪えた。
ともだちにシェアしよう!