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「それに、あなたを愛した事を、私は後悔などしていません。
玲達もそうです。
物心つかないあなたを噛んだ事を、何一つ悔いてなどいませんよ?
あなたにとって、それが愚かな行為に見えたとしても…」
「僕には、弓削さん達の愛に応えれるだけの価値も、対価も、なにひとつない…。
何も持ってない!!」
「何も持っていないと思っているのは、あなただけです。
そして、あなたを噛んだ瞬間の、体を駆け抜けた悦び…。
全身が沸騰するような衝動…。
甘くて誘うようなあなたの香りが、甘噛みした事で、もっと淫らに甘く香ったことも…。
頭の中が溶けてしまいそうなほどの愛おしさを抱いたことを、私は生涯忘れない。
あれが…、あの至福の…至上の瞬間が無駄だったとは、私達は決して思いません」
「………っ」
「鬼夜叉が遺した…。
私が…一度は…狂おしい程に愛して焦がれた荊櫻の愛し子を…。
捨て置くなど出来る筈がないでしょう!?」
「………っ!?」
今、弓削は何と言った!?
荊櫻…母を…。
母を愛していた? 弓削が…!?
「荊櫻の代替え品としてではなく、魂を揺さぶるほどの愛情を注ぎたいと願った事を、私は後悔したりはしない」
いつもは穏やかな弓削がぶつけた、真摯で激しい言葉は、璃音の心を焼き尽くさんばかりで…。
龍嗣が自分に向ける愛情と同じように、深く深く、ただ一人…璃音へと総ての愛を注ぎ込むようだった。
「愛情を注ぐ事に、理由など必要はないんです。
好きになった。
恋焦がれた。
だから、首筋を噛んで求愛したんです。
最初からの両想いなどありはしません。
あなただって、最初はご自分の事を好みではなかった旦那様に愛を囁いた。
最終的には、その健気さで振り向かせたでしょう?
片思いから始まる恋愛もあれば、いきなり体の関係から始まる恋愛もある。
こうでなくてはならないという定義はないんです。
たまたま恋愛感情を抱いた相手が鬼夜叉の子供だった。
たまたま愛してしまった相手が、他の人間に惹かれていた。
ただそれだけのこと…」
弓削が、何一つ責めないからこそ、璃音は苦しい。
自分に向けられる分の愛情を返せない自分が悲しくて、璃音はいたたまれない。
それを理解しているからこそ、弓削はきつくきつく璃音を抱きしめ続けた。
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