217 / 454
・
璃音が泣きじゃくっていた間に、弓削のエスプレッソマシンは梱包が終わっていた。
反重力チップを使い、車に積み込み、学園へと引き返すだけなのだが…。
「泣き腫らしてますね…、少し冷やしましょうか」
弓削が、冷やしたタオルを差し出す。
「ありがとう、弓削さん…」
熱っぽい顔に、タオルの冷たさが心地好い。
「まだ涙の香りがしますね」
乱れてしまったツインテールを直しながら、弓削は軽くため息をついた。
「ご、ごめんなさい…。
僕、駄々っ子みたいで恥ずかしい…」
真っ赤な顔で、再び瞳が潤み始める。
「いえいえ、可愛らしいですから、お気になさらず。
このコスプレで瞳をウルウルさせて旦那様の目の前に立ったなら、間違いなく押し倒されますよ?」
「………?」
「旦那様と二人っきりの時に、今のような表情をなさって、『好き』とか『食べて』と言ったなら、最後まで美味しく食べられてしまうと思います」
弓削の言葉が、今ひとつピンと来ないようだ。
「龍嗣、こういうの好きだったっけ…?」
「何と言いますか…、今の璃音様は、男性の庇護欲を非常にそそりますね」
「………?」
首を傾げて考え込む姿が可愛らしく見えるのにも気づかない。
「よく…分からない…」
「意識的になさってるなら、本当に魔性の塊になるでしょうけれど、璃音様はご自分の事には鈍くていらっしゃいますからね…。
そこがまた、旦那様を焦れさせたり煽ったりするんですが…」
「………???」
「二人っきりになられましたら、旦那様にお聞きになってください」
微苦笑しながら璃音に保冷剤を渡し、弓削は携帯電話を取り出す。
「…旦那様が、焦れてメールをしてきてますね。」
「え…?」
「『思ったより時間がかかってるが、璃音の具合でも悪いのか?』だそうです。」
「……僕の携帯にも来てる…。
『大丈夫か?もしかして、何処か痛み出したのか?』って…」
そのまま、龍嗣の携帯番号をクリックする。
ワンコールで龍嗣が出た。
思ったより心配をかけてしまったようで、璃音は胸が痛んだ。
『もしもし?璃音?』
「うん。龍嗣、ごめんね?思ったより道路が混んでたから…。
積み込みも終わったから、これから向かうね」
『あ、ああ』
無事を確かめ、安堵した声が聞こえた。
ともだちにシェアしよう!