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 璃音が泣きじゃくっていた間に、弓削のエスプレッソマシンは梱包が終わっていた。  反重力チップを使い、車に積み込み、学園へと引き返すだけなのだが…。 「泣き腫らしてますね…、少し冷やしましょうか」  弓削が、冷やしたタオルを差し出す。 「ありがとう、弓削さん…」  熱っぽい顔に、タオルの冷たさが心地好い。 「まだ涙の香りがしますね」  乱れてしまったツインテールを直しながら、弓削は軽くため息をついた。 「ご、ごめんなさい…。  僕、駄々っ子みたいで恥ずかしい…」  真っ赤な顔で、再び瞳が潤み始める。 「いえいえ、可愛らしいですから、お気になさらず。  このコスプレで瞳をウルウルさせて旦那様の目の前に立ったなら、間違いなく押し倒されますよ?」 「………?」 「旦那様と二人っきりの時に、今のような表情をなさって、『好き』とか『食べて』と言ったなら、最後まで美味しく食べられてしまうと思います」  弓削の言葉が、今ひとつピンと来ないようだ。 「龍嗣、こういうの好きだったっけ…?」 「何と言いますか…、今の璃音様は、男性の庇護欲を非常にそそりますね」 「………?」  首を傾げて考え込む姿が可愛らしく見えるのにも気づかない。 「よく…分からない…」 「意識的になさってるなら、本当に魔性の塊になるでしょうけれど、璃音様はご自分の事には鈍くていらっしゃいますからね…。  そこがまた、旦那様を焦れさせたり煽ったりするんですが…」 「………???」 「二人っきりになられましたら、旦那様にお聞きになってください」  微苦笑しながら璃音に保冷剤を渡し、弓削は携帯電話を取り出す。 「…旦那様が、焦れてメールをしてきてますね。」 「え…?」 「『思ったより時間がかかってるが、璃音の具合でも悪いのか?』だそうです。」 「……僕の携帯にも来てる…。 『大丈夫か?もしかして、何処か痛み出したのか?』って…」  そのまま、龍嗣の携帯番号をクリックする。  ワンコールで龍嗣が出た。  思ったより心配をかけてしまったようで、璃音は胸が痛んだ。 『もしもし?璃音?』 「うん。龍嗣、ごめんね?思ったより道路が混んでたから…。  積み込みも終わったから、これから向かうね」 『あ、ああ』  無事を確かめ、安堵した声が聞こえた。

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