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『本当に大丈夫なのか?
何処か痛いんじゃないのか?
明け方も痛がっていただろう?
無理は駄目だからな…?』
「大丈夫。
明け方、龍嗣が撫でてくれたから、全然痛くないよ。
直ぐに行くから、待ってて…」
『急がなくていいから、怪我や事故に遭わずに戻っておいで』
「うん。
ありがとう…、龍嗣。
大好き…」
『…………っ、私もだ』
いつものように電話を切る前に囁いたのだが、不意を突かれて上擦った声が、電話の向こうで小さく応えてくれた。
「待っててね?」
通話を切り、横に弓削がいたのを思い出す。
恐る恐る見上げると、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔の弓削がいた。
「あ…、あの…」
「なるほど…。
旦那様が毎日毎日マメに帰るコールをなさるのは、璃音様の可愛らしい『大好き』が聞きたい為でしたか。
電話の向こうの、璃音様が恥じらいながら囁くのを想像すれば、それはそれは堪らないでしょうねぇ…」
「………っ」
「何と言うか、ああ…、総一が前に言っていた『幼な妻』のいじらしいイメージですねぇ…。
私も、帰るコールをしたら、『大好き…早く帰ってきて』と言ってくれる、可愛くて健気な番いを見つけたいです」
嫌味の欠片もなく本心から思っているようで、弓削はニコニコ笑っている。
「龍嗣が、いつも僕の事で焦れ焦れするでしょう?
だから、不安な気持ちを少しでも減らせたらなって思って…。
好きだって気持ちを、ストレートに伝えたくって…。
メールでもいいんだけど、たった一秒でもホントの声で伝えたいから、いつも、帰るコールして貰うんだ…」
「それは、私も見習わないといけませんね。
番いの相手が出来たら、是非真似をさせていただきます」
お互い、照れ笑いになる。
「では、そろそろ向かいましょうね?」
「うん」
ワンボックスに向かう璃音と弓削。
「弓削さん………あのね…」
「はい」
「……………、…………っ」
突然吹いた風に、白い花びらのような雪が混じって駆け抜けていく。
璃音の言葉が聞き取れないほどの勢いで。
「今…、何とおっしゃいました…?」
「幸せになって…。
絶対、禁断症状で死なないで。
絶対…、絶対に幸せになってね、弓削さん」
囁く声は、贖罪と願いが籠められていた。
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