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◇◆◇◆◇ 「ただいま~」  エスプレッソマシンを弓削と璃音が運んできた。 「龍嗣、ごめんなさい…。  渋滞にはまっちゃって…」 「いや、無事ならいいんだ。  てっきり痛み出してるものだと思ったから…」 「大丈夫だよ。  見て見て?跳ねても痛くないよ?」  埃が立たないように軽く跳ねて見せるが、フワリと鼻を擽った肌の香りに微かに涙の香りが混じっているのを、龍嗣は感じ取っていた。 『………?』  普通に笑っているようでいて、何かが見え隠れしているのだ。  元々穏やかで、感情の振れの小さい璃音が泣くなど普通は無い。  大抵は、龍嗣といる時に涙を流す事はある、が…。 『やはり、両親絡みか…?』  昨年、急に亡くなった晶と荊櫻…。  スリップ事故だった為、予想以上に状態が酷く、遺体を確認したのは璃音と本家当主の二人だけだと聞く。  弔問客だけでなく、主だった親類にすら見せられない状態であったというなら、14歳で遺体と対面した璃音のショックはいかばかりだろう。  その両親の命日は、明後日に迫っている。 『精神的に不安定になっているのかも知れないな…。  明日からの連休、キープしておいて正解だったかな…』  無理をして明るく振る舞っているようなので、思い切り甘やかしておこう…と、龍嗣は思った。  午前中でローテーションが終わったため、璃音は龍嗣と学園祭を回ることになった。  メイド服だと目立つので、猫の尻尾を外してコートを羽織る。 「ごめんね、まだ着替え出来ないから、メイド服のままになっちゃって…」 「私は別に構わないぞ?  どんな格好でも可愛いからな、君は」 「女装でも?」 「女装でも。  さ、参りましょうか?お嬢様」  龍嗣が恭しく手を差し出したので、璃音は顔が真っ赤になった。  耳まで赤くなり、怖ず怖ずと龍嗣の掌に手を乗せているのも可愛く見えてしまう。 「なんだか、初々しいですねぇ…。  璃音様、危ない場面に遭遇したら、直ぐにお逃げくださいね?」 「う…ん、出来るだけ…遭わないように…、気をつけて行ってきます…」  周囲にいる同級生に気を遣っているのか、言葉が途切れ途切れになっている。怖ず怖ずとした様子が小型犬っぽく見えて、大人達の庇護欲を大いにそそるのだが…。  本人は気付く由もない。

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