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「それじゃあ、行ってきます」  龍嗣と手を繋いだまま、璃音はカフェテリアから出て行った。  普通、15歳の少年ともなれば親と手を繋いで歩くなどしないであろうが、10歳位にしか見えない璃音なので、余り違和感も無い…。 「なんだろ…、凄く可愛いって言うか…ほほえましいっていうか…。  違和感無かったね…」  省吾が呟く。 「ホントの親子みたいよね…。  きっと、凄く優しいお義父さんなんじゃない?  安心っていうか、信頼しきってる感じするし」  子供達が抱いた印象は、そんなに悪いものではないらしく、弓削は胸を撫で下ろした。 『親子じゃなくて、ずっぷり恋人だからこそのベッタベタぶりなんですがね…。  いかがわしい行為をしていたりもするなんてバレたら、おおごとですね…』  うっそりと笑い、再びエスプレッソティーを煎れる。  誰よりも幼く見えて、龍嗣の腕の中の璃音は情欲に染まり淫らなのだが、きっと誰一人として信じはしないだろう。  美しく、淫らに誘う様を見たなら、璃音に求愛していなくても魅入られてしまうのではないかと思う。  幼さに潜む淫らさと、魔性のようなもの…。  甘い声で啼く姿態を見て、正気を保てる者など、いるはずがないのだ。  その幼い魔性に囚われたのが、龍嗣であり、弓削達でもあり、瑠維でもある。  身も、心も、魂までも搦め捕る、無意識の魔性。  遅れた成長を終わらせた時、どれだけ極上の獣に育っているのだろう…。 『多分、あのお二人は、初めから対になるように生まれたのだろう…。  出会ったのが必然なら、惹かれあうのも必然。  初めて体を繋いだ時も、互いが上り詰めたとおっしゃっていたのだから、相性が抜群に良かったのも当たり前のようなもの…でしょうね…』  厨房のカウンターについていた小鳥遊は、ぼんやりと窓の外に目をやっている。  先程の璃音の笑顔を見てから、感慨深げにしているので、暫く放置していたのだが。 「どうしました?」  とうに中身の冷めたカップと、煎れたてのエスプレッソティーが入ったカップを入れ替えて、小鳥遊に差し出す。 「あ、ああ… 別に…」 「ふふ…」 「何だよ」 「小憎たらしい花婿に、愛娘を渡したあとの父親のような顔ですよ?玲…」 「………知るかよ」  小鳥遊は、忌ま忌ましげに紅茶を口に運んだ。

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