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「私は、幼い時に見た鬼夜叉の花嫁姿を思い出しましたよ」
「………」
「いつもは、激高したら止まれない鬼女そのものでしたのに、純白のドレスに身を包んだ鬼夜叉は、この世の物とは思えませんでした。
嵐の塊が楚々として晶様の横に立ち、頬を染めたあの姿が、璃音様と重なって見えましたからね…」
「あんなエロいオッサンを選ぶなんて、どうかしてる…。
一族の人間の方が、何倍も蕩けさすのによ…」
執事やメイドの格好をしている子供達に聞こえないように囁く小鳥遊の言葉は、多少の屈折はあるが璃音への想いの程が窺い知れる。
璃音の首筋を噛んでから10年余りの間、心の底から焦がれていたのだから。
「それは、六人全員が同じ想いでしょう。
そして、早過ぎる甘噛みをする要因になった瑠維も、………ね」
「はん。
堪え性の無いガキなだけだろ?
あの馬鹿が近親噛みなんかをやらかさなきゃ、少なくとも今回の事態は防げた筈だ。
どっちみち、あいつには資格は無ぇんだし、対象に入れるのはヤメろよな」
「どうでしょうね…。
彼を対象に入れるかどうかは、本家のジジイ共の気持ち次第です。
何しろ、今までの例にないだけの血の濃さの兄弟ですから、先々齟齬(そご)の無いようにして貰いたいと思いますよ」
龍嗣の愛を得て、成長を始めた璃音を取り巻く状況は、決して安全なものではない。
あの肌の甘い香りに酔って、良からぬ事を為そうとした一族の者を、弓削達は何度も退けて来た。
中には、正気を失いかけて、消された者もいる。
瑠維自身、近親噛みが露呈した事で、焦がれるあまりに璃音へ狼藉をはたらかないという確証もない。
「一応、氷室邸内では私が、学園内では総一とまりあがガードに入っていますが…。
完全に婚儀が成立するまで、無事に済んで貰いたいものです。
瑠維に伴侶候補が現れてくれれば、かなり楽なんですがね…。
玲、どうです?」
「………何で俺に振る…。
俺は健気で尽くしてくれるタイプが好みなんだぞ…?」
「一人だけを一途に想い続けるあたり、とても健気じゃないですか」
「そういうお前はどうなんだよ…?」
「………直情馬鹿は、一番苦手なんですよ…」
「………だったら俺に振るな…」
忌ま忌ましそうに、小鳥遊は紅茶を飲み干した。
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