230 / 454
・
自分と璃音の関係が、意外に駄々漏れ状態だったことに、龍嗣は改めて冷や汗が噴き出す思いだ。
「あの…」
龍嗣のスーツの裾を、千尋がツンツンと引く。
「ん?」
「もしかして…、荊櫻が言ってた"エロ魔神"っていうの、氷室さんの事?」
「………っ!!」
「千尋、そこまで露骨に言うのは…」
龍嗣と鷹也が慌てる。
「荊櫻が言ってたわ。
うちの子が選んだ相手は、物凄くタチの悪いエロ魔神だ…って」
確かに、自分はタチのわるいエロ魔神だったので、ぐうの音も出ない。
璃音の父の晶にフラれ、半ばやけくそで男女の区別なく付き合い、飽きればさっさと別れていたのだから。
「確かに、見境いが無かったから反論のしようもないな…。
でも、今は璃音だけに夢中だぞ?
多分、それも世間的には問題ありありだろうけど」
「………そんなにあの子が好き?」
「好き…という一言で済ませる事も無理だな。
始終傍に置かないと不安だし、誰よりも大事だと思う。
同じ性別なのに、焦れ焦れするし、愛おしくて仕方ない」
「そうなんだ…。
一番大事なのね?」
「大事だよ…。
何にも換えがたい存在だからね。
君にとっては、気持ち悪い話しかもしれないけど」
自嘲気味に呟くと、千尋は穏やかに笑う。
「ううん。
何にもない私に、色んな事を教えてくれた荊櫻の子供が幸せなら、それでいいの。
私は恋愛したりとか、誰かと体を繋ぐのは抵抗があるけど…」
苦笑いに近い顔の千尋に寄り添う鷹也も、苦い顔をしている。
「何か複雑な事情があるみたいだけど、恋愛を頭から否定はしないでおいたほうがいいかもな。
少なくとも、鷹也さんは君を憎からず想っているようだし」
「「………っ!!」」
鷹也と千尋が、それぞれ気まずそうにそっぽを向く。
「まだ恋人同士というよりは、何か命に関わる事件をくぐり抜けた同士のようだけどね」
「………いやですね、まるで見てきたかのようだ。
企業の社長さんにしておくのは勿体ない。
どうです?今から転職しませんか?」
「転職?」
「ええ。警視庁ですけど」
「いや、遠慮しておくよ。
淫行罪で逮捕されそうだし、それに、多忙過ぎて恋人に捨てられたらかなわないから」
真剣な顔で断る龍嗣に、鷹也と千尋が噴き出した。
ともだちにシェアしよう!