239 / 454

「私はマタタビか?」  可笑しくて笑うと、璃音もつられて笑う。 「そうかもね…」  龍嗣の肌の香りに酔い、トロリとした瞳の璃音。  徐々に体の内から熱くなって来ているのが、スーツを通していてさえわかる。 「僕…、発情してるみたい…恥ずかしいよ…」  胸元に頬を擦り寄せる仕草すらも、媚態のように見えてしまう程だ。 「気が合うな。  私も発情したみたいだ」  華奢な体を抱き上げ、向かい合わせになるように抱きしめる。  熱を持ちはじめた小さな手が、龍嗣の頬に伸ばされた。  甘くて熱い吐息が鼻腔をくすぐる。 「ねえ、キス……していい…?」 「ああ」  ちゅくん。  微かな水音と共に唇が重なった。  まるで何年もしていなかったように、待ち侘びた口づけ。  いつも受け身の璃音が、舌を出して龍嗣の唇を割る。  唇の裏側を這う舌の感触に、ザワリと全身に悦びが駆け抜けた。  軽く唇だけで舌を噛んでやると、腕の中の体がふるふる震えて一層愛しくなる。 「あふ…っ、んん…、あ…む…」  差し出された舌を、尚も唇ではむはむと軽く噛む。 「や……ぁ…ん、ん…、んむ…っ、あふ…ぅっ」  ぷちゅん、と、水音を立てて唇を離すと、璃音の上体が後ろに反り返りそうになった。 「あ……っ」  背中を這いあがる衝動に負けて、体から力が抜けている。  肩に体を預けさせ、龍嗣はソファに腰を下ろした。  自然に、璃音は龍嗣の両足を跨ぐような体勢で向かい合わせに座る形だ。 「これなら安定してていいだろ?」 「………ん」  ねだるように顎を少し前に出すと、花びらを思わせる唇が重なった。  チュ…、チュ…、チュ…。  互いに啄むだけで、脳髄まで溶けてしまいそうな気がする。  自然に絡ませ合う舌が体の中の燠火を燃え上がらせて、堪えていた情欲を煽りたてる。  体を繋ぐ事を許されていないから、せめて口づけだけでも相手を悦ばせたい。  性交の代償行為のように激しく舌を絡め合い、吐息も唾液も混ぜ合わせて吸いあう。  弓削が迎えに来た時に互いの昂ぶりを扱き合ってでもいたら、きっと色々と制約を増やされるだろうから、キスだけで済ませておかねばならない。  だから。  だからこそ、最上の快楽を相手に与えられるように、甘美で淫らなキスを仕掛けるのだ。

ともだちにシェアしよう!