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「もしもし」
『…瑠維か?』
「ああ…」
『このとおり、天気の状態も良くない。
渋滞にはまったままガス欠になってしまうより、弓削達と屋敷で休んでくれないか?』
「…璃音をアンタと研究室に缶詰めにしたままで、安心して寝られる訳ねえだろ?」
同じ家ならまだしも、離れた場所に二人きりで置きたくない。
つい先日も、目を離した隙にバスルームでいちゃついていたではないか。
油断してたら、禁止されている筈の行為までしかねない。
『それもそうだな…。 璃音に代わろう。
…璃音、瑠維が君の事を心配してるぞ?』
微かな音がして、璃音に手渡された気配がする。
『………?
心配って…変なの。
もしもし? 瑠維?』
「あ、ああ」
電話ごしの声なのに、心臓がバクリと跳ねる。
『こっちは自家発電だし非常食もあるから、一晩くらいは大丈夫なんだけど…』
「そういう問題じゃねえだろ?
オッサンと一緒にいたら歯止めが掛からないし、ヤられちまったらどうすんだよ」
身も蓋も無い断言っぷりに、弓削達だけでなく、電話の向こうの璃音も表情が固まった。
『……瑠維…、酷いよ…っ!!』
じわじわと、声が震えていくのが伝わる。
「兄ちゃんは、璃音が心配なんだ。
お前、体も小さいのに、並外れてでかいオッサンとどうこうなんて、いつか体壊すんじゃないかって…」
『龍嗣は、そんなケダモノじゃないよ?
なんで瑠維は信じてくれないワケ?
もうっ、ややこしくなるから、電話切り替えるよ?
耳離して、瑠維』
電子音の直後、音声通話からテレビ通話に切り替わり、画面にはメイド姿の璃音が映っていた。
『瑠維の意地悪。
なんで僕の事信用してくれないかなぁ?』
「だから、信用してないんじゃなくて、心配なんだって!!」
『僕も龍嗣も、白川先生とした約束守ってるよ?
家から離れて二人っきりになったからって、見境なく変な事なんかしてない。
それとも、僕の事も見境の無いケダモノ扱いで見てるの?』
ぐっと詰まり、瑠維が一瞬怯んだ。
その沈黙を肯定と受けとったのか、璃音の表情がみるみる曇り、涼やかな目元が潤み始め、大粒の涙がボロボロと落ちていく。
『酷いよ…。
瑠維はそんな目で僕の事見てたんだ…』
心底傷付いたように泣く璃音に、瑠維は酷く狼狽した。
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