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「瑠維様」
「な、なんだよ…」
うろたえる瑠維の隣に座り、弓削が切り出した。
「璃音様が可愛くて心配なのでしょうが、状況もお考え下さい。
この渋滞で詰まった私達では、学園まで迎えに行くことは困難です。
屋敷の運転手達も、この状況では動けませんし、ましてや、この爆弾低気圧の暴風吹きまくりの悪天候の中を、薄着の璃音様を歩かせるのも非常識極まります。
たった一晩、たった一晩なのですよ?
ご自分の兄弟を信じてすらやらずに我を通すのは、子供じみた我が儘でしかないのではありませんか?」
一気に切り込み、瑠維を反論の余地もない状態に追い込む。
「す…凄ぇ。 ここまで言われたら反論の余地も無ぇな…」
ハンドルを握り、弓削の遣りように閉口するしかない小鳥遊。
「だってよ、あのオッサンが璃音にがっつかねえって保証があんのかよ?」
「何を今更…。
璃音様が旦那様にがっつかれる現場を見ても、まだ子供扱いなさるのですか?
確かに体は小さくとも、璃音様は一企業の部門統括を勤め上げるだけの度量がおありです。
見た目が子供子供しているからと、中身まで子供扱いなさるのはおやめなさい。
旦那様も、惚れた弱みで璃音様には逆らえないんですから、嫌だと言われればがっつきませんよ。
そうですね?旦那様!!」
画面に向かって言い切ると、つられて龍嗣も返事をした。
『あ?ああ。
私は基本的に璃音が嫌がる事はしてない。
がっついてる時は、璃音の了解を得ているしな…』
了解を得ようとも、中学生の子供にがっつくのは問題ありありなのだが、弓削は敢えてスルーしている。
「瑠維様、そこまで意固地になるほど璃音様が可愛いと思ってらっしゃるのは、私も痛い程解ります。
ただ、いたずらに璃音様を危険に晒すのもどうかと思いますよ?」
「……分かったよ」
不承不承ながら、瑠維が認めた。
「そんかわし、変な事すんなよオッサン。
璃音、変な事は嫌だって突っぱねろよ、分かったな?」
『うん』
『ああ。 分かった』
璃音と龍嗣の返事を聞き、忌ま忌ましげに弓削へ携帯電話を突っ返し、瑠維はそっぽを向く。
万が一、自家発電が止まったら連絡をするように念を押し、弓削は通話を切る。
丁度脇道に差し掛かり、ワンボックスカーは氷室邸へと進路を変えた。
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