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「なあ…?」
傷の手当をしていた小鳥遊は、瑠維の顔を覗き込んだ。
「…なんだよ」
「お前、ホントに璃音だけがいいわけ?」
「………?」
怪訝そうにしている瑠維を小鳥遊は静かに伺う。
「だってよ、絶対先が無えんだぞ?
アイツは夏にはエロ魔神の花嫁になるのも解ってんだろ?」
「………」
「なぁ、それって辛いんじゃねえの?
お前の思いの行き場所無えだろ?
ぶつける先が無えんなら、せめて愚痴る相手位要るんじゃねえのかよ?」
「うっせえなッ!!
無条件で璃音に求愛出来る奴なんかに、言われたくねえんだよッ!!
アンタに俺の気持ちが解るわけねえだろッ!?」
小鳥遊の手を振り払い、瑠維は踵を返す。
が、
肘を掴まれて、簡単に腕の中に抱き込まれる。
「ああ、お前の気持ち全部なんか、俺には理解出来ないね。
下半身暴走男って言われる位の俺だって、兄弟姉妹に求愛する程悪食じゃねえしな。
だがな、鬼夜叉から持ち掛けられたとは言え、俺も赤ん坊の璃音の首を噛んだ一人なんだぜ?
多少の時間の前後はあるだろうけど、禁断症状を起こしまくる位には、アイツに焦れ焦れし続けて来たって事だけは、お前と同じじゃねえの?
確実に叶う訳じゃねえものに焦がれるって事は同じだろ?
それに…
それに、あんだけ鈍い奴の事を愚痴る位、バチは当たらねえだろうがよ!?」
「璃音の事を悪く言うなッ!!
アイツは、ずっと純真なままで生きてきたんだ!!
俺が入院さえしなきゃ、ずっと傍にいて綺麗なまんまでいれたッ!!
今だって、あの男に気持ちが向いてるかも知れねえけど、最後にアイツが選ぶのは俺なんだ!!
生涯ひとりだけの伴侶は、俺以外…っ」
俯いていた瑠維の言葉が途切れる。
ほたほた流れ落ちる涙は、頬から顎、顎から床へと落ちていった。
「璃音の伴侶は…、俺以外有り得ないんだ…」
「………もう、いい」
肩で息をする瑠維を、小鳥遊はきつく抱きしめる。
「はなせ…」
「いいや。 離さないね。
そんだけ酷い泣き方してる奴は、離してやんねえ。
丁度いいんじゃね? 俺は研修中だけど医者だからさ。
お前の傷だらけの心は治せねえかも知んねえけど、目に見える傷は治療してやれる。
ついでに愚痴のはけ口くらいにはなれると思うぜ?」
瑠維は、俯いたまま黙っていた。
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