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「でも…」
「でも…?」
「なんでアンタが俺にアドバイスくれるわけ?
アンタだって璃音に求愛してんじゃねえの?
万が一、自分が不利になるかも知れねえのに、なんで…」
瑠維は、理解が出来なかった。
「まーな、下心がねえとは言わねえよ?
だけど、なんつーか…昔の俺を見てるようでさ、何かイライラするっつーか…。
やっぱ男はもう少しガツガツしなきゃダメなんじゃねえ?
そんな気がして、余計な事かも知れねーけど、つい言っちまった訳。
強制はしねえけど、な」
「………」
小鳥遊が言った言葉は、確かに自分が欲しかったものだったと思う。
璃音が欲しくて焦れ焦れしていた。
本当の想いを口にできないまま壊れ物の様に扱い、璃音から離れなくても済むようにしてきた。
「そりゃ、な。
あんだけの極上なのは、そうそういねえ。
だけど、特別なのは璃音だけじゃねえんだぞ?」
「………?」
「お前もそうだって事」
「………俺は…ちが…」
「お前、璃音から離れなくて済むように、殊更何にも出来ねえ奴を装ってきたろ?
それこそ、引きも切らねえ縁談蹴りまくるために、な。
璃音の陰に隠れて小さく縮こまってきたんだろ?」
グサグサと突き刺さる言葉は、しかし、嫌な物ではない。
今までの自分をあぶり出すような、真摯な言葉だ。
「荊櫻も晶も、そんなお前が気掛かりで、わざと璃音から引っぱがすような真似したんじゃねえの?
あの事故が無けりゃ、璃音は交換留学でアメリカに行ってた筈だしな」
…そうだった。
あの事故が無ければ、確かに璃音は長期の留学をしていた筈だった。
それを潰したのは、紛れも無く自分…瑠維自身。
『………俺の…気持ち…次第』
何故、こんなふうに背中を押してくれる言葉が、今更かけられるのだろう。
これが、もし、一年前にかけられていたのなら、少しは違っていたのだろうか…。
幼い頃から璃音への切ない想いを抱き続けてきた瑠維。
機械工学に突出していながら、幼い心のままで龍嗣を求めてきた璃音。
噛み合わない想いのベクトルが向かう先は、幾つもあった筈だった。
両親が気を揉み。
本家の人間達までが心配した。
それが何故なのか、瑠維には判らなかった。
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