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「ね、弓削さん…」 「はい」 「今日は、どうして龍嗣に冷たいの?」  捨てられて雨に打たれている子犬のような目で、璃音が弓削を見上げた。 「う…っ」  黒目がちの潤んだ目で見つめられて、流石の弓削も怯んでしまう。 「い、いえ、そのような事は…っ」 「ホント? ホントに…?」  いかにも「きゅうん」と鳴いている子犬のようで、弓削は胸がきゅんきゅんしてしまい、動悸と息切れと眩暈を起こしている。 「本当…です…」 「そうだよね…?  弓削さん優しいもの…。  僕と龍嗣に差をつけたりなんかしないよね。  やだな、僕、変な事言って…、ごめんなさい…」 「ふぬぁ…っ!!」  トイ・プードルかマンチカンの子のような目が、弓削の心臓を射抜いた。 『しまった…ッ!!  小動物っけ全開の璃音様の目は、覗いてはいけないのだった…っ!!  落ち着け、落ち着け忍!!  小悪魔の目から視線を反らさなければ…ッ。  ぬぁあああ…ッ!!』 「ね? 弓削さんは、そんな意地悪な人じゃないもんね?  ごめんなさい、僕、弓削さんを疑うなんて酷い事して…」  うるっと一際璃音の目が潤み、弓削の足がガクガクと力を失い始める。 「申し訳ありません、璃音様ッ!!  弓削は…、弓削は璃音様にがっついたエロ魔神に意趣返しをしてしまいましたッ。  お許し下さい…っ!!」  ガックリと膝をつき懺悔しまくりの弓削を、面白そうに龍嗣は見ていた。 『恐ろしいまでの魅了眼だな…。  あれが荊櫻が言っていたプチ・デビルアイか…』  璃音は、両親から受け継いだ物がある。  璃音の肌から立ち上る、えもいわれぬ芳香…所謂フェロモンと、見つめたが最後、決して逆らう事を許されない魅了眼…通称、プチ・デビルアイだ。  前者は父の晶の特徴だった。  一族の者や、一般の者までを魅了した、蘭奢待(らんじゃたい)とも呼ばれる程の香りだったらしい。  後者は母の荊櫻の特徴で、荊櫻がひと睨みすれば誰ひとり逆らえず、猛禽に睨まれた小動物のように竦み上がったという。  普通、突出した特徴はどちらかが相殺されてしまうものだが、璃音の場合どちらも相殺される事なく現れたのだ…。 龍嗣がなんともないのは、偏に深い結び付きが出来上がっていたのと、体を繋いでいるときの媚態を見ていて、ある意味免疫が出来ていたからだと言える。

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