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「…ふ……?」
璃音の睫毛がふるふると震え。
「……すぅ……」
龍嗣の肩に凭れて、気持ち良さそうに再び深く寝入った。
ふわり…。
甘くて柔らかな香りが璃音から立ち上る。
「この甘い香りも、弓削にはもう…?」
「えぇ。
まったく分かりません。
花とも果実とも違うあの甘やかな香りは、もう旦那様お一人だけのもの…。
多分、背が伸びて成長が進むにつれて、旦那様だけを誘惑し続ける為だけに、もっともっと甘く香るようになると思います」
「………」
「一生旦那様を篭絡する、恐ろしい魔物とお思いになりますか?」
「………いや、それはない…」
「それとも、淫らで浅ましい生き物とお思いになりますか…?」
ルームミラーごしの弓削の表情は、少し曇りがちだ。
「いや、そうじゃなくて…。
一瞬の事故とはいえ、これ程の情の深い子供を置いて行かねばならなかった、晶と荊櫻の気持ちは如何ばかりだったんだろうなと…、そう考えたら切なくなっただけだ…」
「そうですね…。
鬼夜叉は、璃音様が成長をして体調が安定するまでは、誰とも番わせる気はありませんでした。
璃音様の情緒が不安定だった理由はただ一つ。
旦那様を恋しく思っての禁断症状だったのですから、遅かれ早かれ体を繋げていたとも思います。
璃音様は、"各務の黒真珠"と呼ばれる程の極上の子供だったんですから、大事にして差し上げて下さい。
何より、それが鬼夜叉と晶様を安堵させるのだと、私はそう思います」
「………」
「旦那様?」
弓削が訝しむ。
「ああ、いや、なんでも…ない。
今度は、健気な璃音を一生かけて、私が篭絡する番なのだな…。
技術統括であろうとなかろうと、私にとっては掛け替えのない存在である事に変わりはない。
正直、会社絡みで外に出さず、部屋に閉じ込めて何処にも行かせたくない位なんだが…。
成長促進期間だけでなく、結婚した後も囲い込んで誰の目にも触れさせたくないなんて言い出したら、璃音はどう思うんだろうな…」
「璃音様は、基本的に旦那様のなさる事を嫌がらないと思います。
"ずっと傍にいろ"と一言言われれば、喜んで張り付いている筈ですから。
ついでに、孕ませるくらいにたっぷり可愛がって差し上げたら如何です?」
弓削がクスクス笑った。
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