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『ん……、龍…嗣…?』
柔らかなトーンの声が璃音の耳を擽る。
いつもは璃音の腰を砕く甘い声なのに、なんだか憂いを帯びているような感じがして、璃音は耳をそばだてた。
「………一瞬の事故とはいえ、これ程の情の深い………置いて行かねば…………かった、晶と荊櫻の気持ちは…………だろうなと…、……考えたら切なくなっただけだ…」
龍嗣の甘い吐息が前髪に当たる。
『なぁに…?僕のこと…?』
夢の中に響いて来る龍嗣と弓削の会話は、聞こえているのだが内容までは聞き取れない。
「健気な………一生かけて、私が篭絡する…技術統括であろうとなかろうと、私にとっては……存在である事に変わりはない。
正直……外に……に閉じ……かせたくない位………期間だけでなく………囲い込んで………れさせたくない………言い……璃音はどう………だろうな…」
途切れ途切れに聞こえては遠くなる。
そんな龍嗣の声に、誰かの声が重なってきた。
『璃音、君は情が深いから、好きな相手に尽くし過ぎないか心配だな…。
たまには、全幅の信頼をもって、相手に寄り掛かれ。 番いに甘えられて嫌がる相手はいないんだからな?
私なんか、嫁に甘えまくって叱られたなあ…』
『………?』
『特に、子供の内は番いに沢山甘やかして貰うといい…。
君が自分で選んだ相手は、かなりの度量の深さだからな?
きっと、ベタベタに甘やかしてくれるだろうし、この世の中の総ての物から君を守ってくれる筈だ。
折り紙付きだよ?
何せ、番い以外で私が最も愛した人間だからねぇ…』
『………お…父…さん…?』
事故の日の朝、父が璃音を膝に乗せて言った言葉だった。
『………ついでに、私が愛せなかった分、璃音が目一杯愛してやってほしいな。
見境いなく付き合っては別れているから、是非とも一生繋ぎ止めておやり』
そうやって話した父は、今は遠い場所だ。
「璃音様は、基本的に旦那様のなさる事を嫌がらないと思います。
"ずっと傍にいろ"と一言言われれば、喜んで張り付いている筈ですから。
ついでに、孕ませるくらいに、たっぷり可愛がって差し上げたら如何です?」
龍嗣の言葉に弓削がクスクス笑って請け合う。
言っている意味の半分は分からなかったが、ずっと龍嗣の傍にいたいと思っていた事を、弓削に代弁して貰って嬉しかった。
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