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『あ、ダメだぁ…、気持ち良くて…』
首がガクリとなりそうだと思った瞬間、体がフワリと暖かい腕に支えられた。
『………?』
「璃音、私に寄り掛かれ…」
優しい腕に引き寄せられて、なんだかむず痒いような、甘い気持ちになる。
「ん………っ?」
少しずつ意識がユラユラ戻り始め、誰かに寄り掛かっていたことに気づいた。
「あ…、あれ?」
肌触りのよいニットを辿り、優しく包むように抱きしめてくれていたのは、いっとう大好きな人だった。
「ゆ……め、だったんだぁ…」
つい今しがたまで、父に優しく窘められていたような気がしたのに、かき抱いてくれていたのは龍嗣で。
璃音は夢と現実の境を解き、龍嗣の顔を覗きこんだ。
「ん?
何か夢を見てたのか?」
「うん…。
お父さんの…夢だった…と思う…」
「晶の?」
「ん……」
龍嗣の鳶色の瞳が、優しく揺れる。
「あのね?
たまには龍嗣に寄り掛かれ、って。
番いに甘えられて嫌がる相手はいないし、子供の内は龍嗣に沢山甘やかして貰いなさいっ…て。
龍嗣は、かなり度量が深いから、きっと、ベタベタに甘やかしてくれるだろうし、この世の中の総ての物から僕を守ってくれる筈だ…。
そう言ってた」
「………そうか。
晶が夢を渡って君に教えに来たんだな…」
「うん…」
「私と璃音の行く先を祝(ことほ)ぎに来たついでに、璃音に説教までして行くとはな…。
何とも粋な計らいをする…」
嬉しくもあり、面映ゆくもある。
「それとね…。
愛せなかった分、僕に龍嗣を目一杯愛してほしいって。
見境いなく付き合っては別れているから、是非とも一生繋ぎ止めておやり、って…。
折り紙付きだよ…、何せ、番い以外で最も愛した人間だからねぇ…、って言ってた」
「………っ」
不意に。
龍嗣の目から涙が零れ落ちた。
「番い以外で………晶が、荊櫻以外に、最も愛した人間だからと…?」
「………うん」
「荊櫻以外に…?」
「………ん。
龍嗣の気持ち、お父さんは気付いてたよ…。
届いてたんだよ…?」
「そうか…、届いていたか…」
零れ落ちる涙と共に、遠い昔の恋の残滓も解けて溶けていく。
とうに終わった恋の欠片がスウッと消え、虚無だった部分に璃音への思いが満ちていった。
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