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最悪へのカウントダウン

「弓削さん…」  眠りから覚めた璃音は、ミラーごしに怜悧な瞳と視線を合わせた。 「ここからなら、水上の家に近い…ですよね?」 「ええ。  お立ち寄りなさいますか?」 「お願いします。」  弓削は幹線道路から左に折れ、璃音が一年前まで暮らしていた家へと車を向けた。  雪のなか、低い生け垣に囲まれた瀟洒な屋敷が見えてくる。  一年前に人手に渡りかけたのを龍嗣が阻止した家…。  時折、両親を思い返したくなった時の為に、龍嗣は璃音へ鍵を渡していたのだ。  倉庫から雪掻き道具を持ってきて、三人は車を置くスペースを確保した後、玄関ポーチを目指して雪を掘る。  雪が深い地域なので、雪かきスコップなどでは間に合わない。  通称"スノーダンプ"で、ひたすら雪をよせていく。  そんな中、隣家の主人が雪掻き機を手に出てきてくれて、深い部分の雪を高速でよせてくれた。 「お?どこの美少女かと思ったら、璃音君じゃったのか。  ますますお母さんに似てきたねぇ」 「そ、そう?」 「涼しげな目元とか、そっくりじゃよ。  久々に目の保養をしたなあ~」  遠くに住んでいる孫でも見るような顔で、ひとしきり隣家の主人は璃音と旧交を温めた後、自宅に戻っていった。 「そんなに頑張った訳でもないが、結構汗をかくものだな…」 「ホントだね、体、ポカポカする…」 「とりあえず、屋敷の中へ入りましょう」  三人は、屋敷の中へと入った。  ひんやりとする玄関に上がり、璃音はブレーカーを上げる。  微かな鳴動がして、セントラルヒーティングがセットされた。 「右奥がリビングで、2階の東側が僕の部屋だよ~。  隣が瑠維の部屋。  どこにしようかな…」 「私はお茶の用意をしたいと思いますので、キッチンをお借りいたします」  弓削はお茶の用意をしにキッチンへ向かい、璃音と龍嗣は2階へ上がる。 「お邪魔しまーす」  なんとなく畏まって璃音の部屋に入る龍嗣。  遮光ガラスの扉がついた本棚には、工業系の本がぎっしり並び、大学の研究室のように模型も天井から吊り下げられていた。 「なんかヤだな…、僕の部屋、子供っぽくて…」 「そうか?私は別にそうは思わないんだが…」  布地などとは違う甘い香りが微かにする。  それは、龍嗣を知る前の璃音の香りだった。

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