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机の本棚に並んでいたのは、機械や科学などの学術書ばかりだった。
「これ全部、中二の時に読んでいたのか…?」
一冊手に取ってみたのだが、龍嗣は内容がさっぱり分からない。
「一応、読み切ってるけど…」
パラパラめくり、読み返していくうちに、段々思い出してきた。
「………あ、ああ…、これ、ドライブシミュレーター作った時に読んでた本だよ、これ。
懐かしいかも…っ!!」
氷室重工絡みの開発で参考にしたらしく、嬉しそうにめくっている。
「…って、目的から外れてちゃいけないんだよね…」
本を机に置き、璃音は書棚の中の方に手を差し入れた。
微かな電子音と鍵が解除される音がして、奥から璃音が小さな箱を取り出す。
「これかな…?」
蓋を開け、一応中を確認してから、璃音は龍嗣に差し出した。
「これ、どうぞ…」
恭しく差し出されたのは、懐かしい字が書かれた封筒だ。
「………?」
「お父さんが、結婚が決まったら、相手の人に渡しなさいって言ってたんだ…。
読んで貰っていい…?」
「あ…、ああ…」
シーリングワックスで封をされた封筒を開け、中身を引き出す。
『璃音を愛してくれる貴方へ。
多分、璃音を貰ってくれるという奇特な…、いや、かなり悪食なのは、龍嗣、…君なんじゃないかと私は思っている。
何でだろう。
荊櫻が選んだ六人の誰よりも、君が璃音を深く愛し抜いてくれるだろうという、漠然とした確信があってね…。
中学生の時に君と出会い、一時は本気で番いになってしまおうかとも思ったって、気付いていたかい?
荊櫻と龍嗣のどちらと番いになるか、本当に迷っていた事も。
体の相性は最悪だったけれど、たった一度だけ体を繋いだ事、私は一日たりとも忘れていないよ。
ああ、だけど、最終的には酷い振り方をして君を傷付けてしまったから、今でも申し訳なく思ってる。
それもあって、うちの二人の子供…、瑠維と璃音のどちらかに、龍嗣を愛して貰えたらなって思っていたけれど、現実に璃音が求愛をしたのは、偶然じゃないって思いたい。
まだ物心もつかない璃音が龍嗣の首筋を噛んだ時、驚きもしたけれど、嬉しくもあったんだ。
私のような迷いの多い人間より、純粋な璃音なら龍嗣に相応しいかもしれないって思ったし。
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