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 嫁姑(?)の諍いも知らず、璃音と龍嗣の現場を目撃してしまった瑠維が氷室邸に着いたのは夕方近くになってからだった。 「おかえり~、瑠維~」  玄関ホールの上から、璃音が手を振っている。 「た、ただいま…」  既にエクステンションを外し、いつもの璃音だ。  少し伸びた髪を除けば…。  吹き抜けの張り出しの所にいた璃音は、上体を乗り出していて、お気に入りのニットを着ている。 「何処に行ってたの~?  部屋にも書斎にもいないし、携帯は置きっぱなしなんだもん。  心配しちゃった」 「あー…、悪ィ…、新しいレシピ用にと思って、書店のハシゴしてたからさ…」 「そうなんだ…」  ずるっ。  張り出しから身を乗り出した璃音が、手を滑らせた。 「危ないっ!!」  宙に投げ出された状態の璃音はフワリと体勢を直すと、猫のように体を丸めて二回ほど回転してから着地した。 「あはは…、ちょっとだけビックリしちゃったよ…」  暢気に笑う璃音を、瑠維はギュウッと抱きしめる。 「馬鹿ッ!!  着地出来なかったらどうすんだよ!!  分かってんのか!?  おまえに何かあったら、俺は…ッ!!」  瑠維の剣幕に、璃音は驚いた。  これくらい、水上の子供には簡単にこなせてしまうのを、瑠維は知っている筈なのに。  だが。  何となく瑠維の動揺を鎮めようと、璃音は小さく頷いた。 「ごめんなさい。  僕、そそっかしいから、いつも心配かけちゃってるもんね…。  もうしないから…、気をつけるから、許してくれる…?」  背中をポンポンと叩くと、瑠維は漸く腕を解く。 「分かってくれればそれでいいんだ。  璃音がいなくなったりしたら、俺、きっとおかしくなる。  だから、危ない真似をしたり、あんまり不注意なことしないでくれよ、な…?」 「………ん」  素直に頷く顔は、いつもの無邪気な顔だ。  髪型も違うし、服も違う。  やっぱり水上の家で見た光景は、たちの悪い白昼夢だったんだと、瑠維は胸を撫で下ろした。 「あのね、今、総一さんが来ててね、学園祭に合わせて髪を伸ばしてたから、切ってくれる事になったんだ。  明日、お父さんとお母さんの一周忌だし、可愛くしてあげるって…。  瑠維も少し伸びてきてるから、切って貰おう?ね?ね?」 「そうだな」  日だまりのような璃音の笑みに釣られて、瑠維も頷いた。

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