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 キシ…。  キシキシ…。  何かが軋む音がする。  夢の底で聞こえるようで、何処か遠くのような音。 「好きだ…。  お前が一番好きなんだ…。  だから、俺だけの伴侶になって…」  この切ない声は、誰…?  キシキシ…。  ぴしゃん…。  軋む音と、聞き慣れたような水気のある音…。  それは、涙…? 「頼むから、俺だけの愛を受けとってくれよ…」  懇願にも似た切ない願い。  慟哭にも似た、深くて灼熱の。  龍嗣以外で、一度は受け入れようかと思った事もあったけれど…。  それはもう、決して出来ないから…。  お互いが越えてしまった境界線。  璃音は幼い躯で龍嗣を篭絡し。  むこうは、最悪の倫理を侵した。  その罪を暴くのは、もはや自分一人にしか出来ないことだから、璃音は受け入れる訳にはいかない。 『ごめんね…。  もう、身も心も捧げる相手を見つけてしまったから…。  しなければいけない事を放り投げる訳にはいかないから…。  僕は受けとる権利が無いんだ…』  愛おしい人の物とは違う感触が、少しずつ眠りを侵食してくる。  つぷん。  唇が割られ、ぬるりとしたものが入ってくる。 『これって…舌…?』  小さく薄い舌に絡みつき、ちゅくんっと吸われる。  なのに。 『なんで…?』  なんで甘くないのだろう…。  いつもなら、意識を侵食する程に気持ち良く、甘くて痺れるようなのに、今は全然気持ち良くならない。  ツプリ。  触れられたら、直ぐに芯が通ってキリキリ痛い筈の胸の尖りも、全然悦んでない…。  親指の腹で潰し、クリクリと捏ねられているのに。  芯が通るどころか、不快なだけ…。  それに。  肌が違う。  頭の中を痺れさせる、大人のオスの香りじゃない。  重ねた瞬間、触れたところ全部の皮膚が粟立ってしまう位になってしまう筈の、馴染んだ肌じゃない…。  もっと違うのは。  体にかかる重さが違う…。  いつもなら、もっと重くて、絶対的な安心感をくれる、綺麗な筋肉に縁取られた体と違う。 『なんで…? 変だよ…?』  重くて仕方ない瞼を、一生懸命開けてみる。 「……?」  朧げな視界にあるのは、愛しい人の顔じゃない…。  生まれたままの姿になった自分を組み敷いているのは、婚約指輪をくれたあの人じゃない…っ!! 「俺の…、俺だけの、だ…」 「イ………ヤ………だ…ぁっ!!」  情欲に染まり、璃音の肌を貪るケモノ…。  股間のものを硬く勃起させ、璃音の大腿に擦り付けているのは…。 「やめて…イヤ…!!」 「何で? お前は俺だけの花嫁じゃないか…っ」  璃音を組み敷いていたのは、紛れも無く。 「嫌………ぁ…ッ!!」  瑠維だった…。

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