315 / 454
・
キシ…。
キシキシ…。
何かが軋む音がする。
夢の底で聞こえるようで、何処か遠くのような音。
「好きだ…。
お前が一番好きなんだ…。
だから、俺だけの伴侶になって…」
この切ない声は、誰…?
キシキシ…。
ぴしゃん…。
軋む音と、聞き慣れたような水気のある音…。
それは、涙…?
「頼むから、俺だけの愛を受けとってくれよ…」
懇願にも似た切ない願い。
慟哭にも似た、深くて灼熱の。
龍嗣以外で、一度は受け入れようかと思った事もあったけれど…。
それはもう、決して出来ないから…。
お互いが越えてしまった境界線。
璃音は幼い躯で龍嗣を篭絡し。
むこうは、最悪の倫理を侵した。
その罪を暴くのは、もはや自分一人にしか出来ないことだから、璃音は受け入れる訳にはいかない。
『ごめんね…。
もう、身も心も捧げる相手を見つけてしまったから…。
しなければいけない事を放り投げる訳にはいかないから…。
僕は受けとる権利が無いんだ…』
愛おしい人の物とは違う感触が、少しずつ眠りを侵食してくる。
つぷん。
唇が割られ、ぬるりとしたものが入ってくる。
『これって…舌…?』
小さく薄い舌に絡みつき、ちゅくんっと吸われる。
なのに。
『なんで…?』
なんで甘くないのだろう…。
いつもなら、意識を侵食する程に気持ち良く、甘くて痺れるようなのに、今は全然気持ち良くならない。
ツプリ。
触れられたら、直ぐに芯が通ってキリキリ痛い筈の胸の尖りも、全然悦んでない…。
親指の腹で潰し、クリクリと捏ねられているのに。
芯が通るどころか、不快なだけ…。
それに。
肌が違う。
頭の中を痺れさせる、大人のオスの香りじゃない。
重ねた瞬間、触れたところ全部の皮膚が粟立ってしまう位になってしまう筈の、馴染んだ肌じゃない…。
もっと違うのは。
体にかかる重さが違う…。
いつもなら、もっと重くて、絶対的な安心感をくれる、綺麗な筋肉に縁取られた体と違う。
『なんで…? 変だよ…?』
重くて仕方ない瞼を、一生懸命開けてみる。
「……?」
朧げな視界にあるのは、愛しい人の顔じゃない…。
生まれたままの姿になった自分を組み敷いているのは、婚約指輪をくれたあの人じゃない…っ!!
「俺の…、俺だけの、だ…」
「イ………ヤ………だ…ぁっ!!」
情欲に染まり、璃音の肌を貪るケモノ…。
股間のものを硬く勃起させ、璃音の大腿に擦り付けているのは…。
「やめて…イヤ…!!」
「何で? お前は俺だけの花嫁じゃないか…っ」
璃音を組み敷いていたのは、紛れも無く。
「嫌………ぁ…ッ!!」
瑠維だった…。
ともだちにシェアしよう!