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「依留、大まかな説明は以上です。
私の弟妹の中でなら、亮(とおる)が一番順応が早いと思いますので…。
そう…、ええ。
そうして下さい。 頼みましたよ」
あらかたの説明を終えた弓削が、携帯の通話を切った。
両足は纏めて縛られ、両手は後ろ手に硬く結んだロープで押さえられた瑠維を見遣り、苦々しい表情を更にきつくした。
「簡単に一服盛られるとは、余程の馬鹿ヅラでもしてたのか?
貴様らしくもないじゃないか、玲」
壁際に凭れた小鳥遊が、ビリビリと痛む額を押さえて呻く。
「仕方ねぇだろ?
まさか紅茶と茶菓子の両方に仕込まれるとは思わねぇし。
それに…」
「それに?」
「昼前に喋った時は、すんげーしおらしかったんだぜ?
てっきり俺の話しで納得してくれたんだと思ったんだ」
ガツッ!!
裏拳気味に弓削の手が小鳥遊の顔を打つ。
「それが貴様の甘い所だ、玲。
しおらしければ、絆されたとでも?
その甘さが今回の事態を引き起こしたんだ。
違うかッ!?」
いつもの怜悧さがいっそ見事なまでに研ぎ澄まされ、周囲の空気まで凍らせていく。
「後々、あれが精神崩壊を引き起こしでもしてみろ…。
貴様らを生きたまま纏めて五分刻みにして鮫の餌にでもしてやる。
畳の上で死ねると思うなよ」
恐ろしいまでの弓削の怒りに、小鳥遊は震えた。
六人の中で最も容赦が無く冷酷で恐ろしいのは、誰でもなく弓削だ。
中学生の頃には、璃音に対して不埒な真似をしようとした大人数人を一人で沈め、うち一人は未だに半身不随の身だ。
また、残りの者達も半死半生の怪我から回復したものの、社会復帰は出来なかった。
一撃必殺で済む筈なのに、敢えて虫の息寸前までボコボコにし、肉体的にも精神的にも大きなダメージを植え付けた様は、その場にいた小鳥遊達を震えあがらせたものだ。
キレたとしても、頭の中に冷静な部分を持っているからこそ、氷室家に引き取られるまでの璃音が無事であったのも事実…。
最強のボディーガードであり、瑠維を除けば一族で最も深い愛情を璃音に向け続けた弓削。
璃音の伴侶の最有力候補に上げられていたのは、伊達ではないのだ。
各務筆頭として、他の追随を許さぬ有望ぶりの顔の下。
その秘めた激情を久しぶりに目の当たりにした小鳥遊は、心底震えあがった。
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