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「確かに、あれに対する執着する人間の中では、こいつは一番深いものがあるだろうが、な…」
ばぁんっ!!
瑠維を壁に押しやり、弓削は喉元を掌でギリギリと押さえ付けた。
押さえ付けながら上へと力が加わり、瑠維の体は少しずつ上へとずり上がっていく。
「か…は………っ」
「随分舐めた真似をしてくれたな…瑠維…ッ」
尋常ではない、万力のような力で締め上げられ、頭に血が集中する。
頭の中でガンガンと音が鳴り、視界が暗くなる。
「……っは…」
酸素を求めて口がパクパク開き、舌が競り上がってきた。
『ま、マジ…かよ…ッ!!』
意識がブツブツと途切れてくる。
「おいっ、マジで殺す気かっ!?」
後ろから弓削に手をかけた瞬間、強烈な衝撃が小鳥遊を襲った。
ガスッ!!
「ぐふ…ッ。」
瑠維を押さえ付けたまま、弓削は器用にも小鳥遊に回し蹴りを入れたのだ。
吹っ飛ばされた小鳥遊は、そのまま本棚にぶつかり、床に転がった。
成人男性としては細身の部類に入る弓削だが、その身に潜む力は半端ではない。
繰り出す拳はプロの格闘家でさえ一発で沈めてしまう重さと技量を有し、握力もキック力も言わずもがなだ。
そんな人間が数々の武道…マーシャルアーツに至るまでマスターしているのだから、たまったものではない。
頭一つ以上背が高い筈の小鳥遊も一度として弓削に勝てた試しがないし、一族で弓削に勝てたのは荊櫻のみだったから、事実上弓削に敵う人間はいないと言える。
「忍…っ、ゲホッ!!
おいっ、やめろ、殺す気か…!?」
瑠維を吊り上げたまま、弓削がゆっくり振り向いた。
「くくく… 愚問だろうが。
殺す気満々に決まってるだろう?
鬼夜叉の子に手を出して、ただで済ます訳があるまい?」
尚もギリギリと締め上げて、弓削は文字通り夜叉の顔で笑う。
「やめ…ろッ、忍、それ以上締め上げんなっ!!
そいつも…、そいつも鬼夜叉の子だろう!?」
「知るかッ!!
あれを陵辱した時点で、ただのケダモノに落ちたガキだ!!
璃音の代わりに、この首へし折ってやるッ!!」
「やめろって!!」
必死で取り付く小鳥遊の手が、弓削の手をはたく。
だんっ!!
ほぼ気絶していた瑠維が床に滑り落ち、そのまま上半身も崩れて倒れた。
「が…、がはぁ…っ!!」
紫色の顔で瑠維が咳こんでいた。
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