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 鼻と口から一気に空気が流れ込み、瑠維は酸素を取り込もうとして咳こんだ。  その瑠維の胸倉を掴み、上体を起こしてやると、弓削は思うさま頬を張った。  ビシィッ!! 「ああ。  反対側もだったな」  バシィッ!!  利き手で力加減もなく入れた平手打ちで、瑠維は壁に頭を打ち付けてしまった。 「忍ッ!!」 「本気で首をへし折らなかっただけ、有り難く思うんだな…」  ユラリと立ち上がると、部屋のドアが控えめにノックされた。 「………兄さん、いる?」  そっと覗き込んだのは、弓削の弟の亮(とおる)。  兄に比べて少し甘い顔をしてはいるが、怜悧な瞳はそっくりだった。 「ほう。  思ったより早かったな」 「そりゃ、依留姉から"忍が切れた"って聞かされたら、来ない訳にはいかないだろ?  で、コレどうすんの?  兄さんの可愛い子猫ちゃんを盗み食いしたらしいけど…」  足元に転がる瑠維を指さし、亮が苦笑いする。 「決まってるだろう?  キッチリ躾し直ししてやる。  ついでに多少痛い目も見てもらうつもりだ」  当然だろ?という顔をして、弓削が身支度を始めた。 「んじゃ、兄さんの気が済むまで代わりを務めときゃいいんだな?」 「ああ」 「忍、亮が代わりって…。」 「どっちみち、璃音が回復するまでエロ魔神も足止めだ。  会社の方は依留と優、あとは亮が俺の代わりで回せる筈だ。  少なくとも、数日はな。  その間に、この手癖の悪いクソガキをしつけ直してやるさ」  苦々しい顔で気絶している瑠維を肩に担ぐと、足音も荒く階段を降りていく弓削。 「玲兄、ありゃ相当ブチ切れてるから、ついて行った方がいいよ?  下手すりゃ、鬼夜叉の子が死んじゃうし」  呆気に取られていた小鳥遊が我に返り、慌てて階段を駆け降りていく。 「最終的には手加減するかも知れないけど、かなり璃音のコト気に入ってたからなぁ…。  一途で健気な忠犬タイプで、メチャ可愛がってたのに、横合いからつまみ食いされちゃったら、キレちゃうよな…。  ま、玲兄がいれば最悪の状況まではなんないよね…」  一人ごち、亮はベッドからシーツやベッドカバーを剥ぎ取った。 「……う…わ…っ。  やっぱ血の雨かな…」  飛び散ったものや、血痕を目にして、その現場が目に見えるようで、さすがに亮の背筋が凍り付いた。

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