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弓削によって連れ去られた瑠維が、小鳥遊に嬲られようとしている頃…。
龍嗣の腕の中で身を硬くしていた璃音が、少しずつ眠りに落ちようとしていた。
「…う、うく………っ」
必死で睡魔に抗っているのを、ゆっくり宥めて眠りに誘う。
「大丈夫、こわくない…。
もう、璃音は怖い目に遭わない。
私の腕の中にずっといるから大丈夫…」
龍嗣は、幼な子を寝かしつけるように、そうっと璃音の背中を撫でていく。
「………っふ…」
ふるふるしていた瞼が降りて呼吸が深くなっていくのを、龍嗣はじっと待つ。
膝や腕に触れる璃音の体は、ほんの少し温かみを増してきた。
「今は、ゆっくり眠るんだ。
………いいね?」
「………」
「ずっと一緒にいる…。
璃音が安心できるまで、ずっといるから…」
「………ん……」
いつものように、龍嗣の腕の中で眠りに落ちた華奢な体は、まだ微かに湿布の匂いがする。
痛ましい出来事を頭の隅に追いやり、そっと上着をかけた。
「………落ちたかい?」
「…ええ」
白川医師がゆっくり立ち上がり、鞄のポケットから薬の袋を取り出す。
「………?」
「万が一、パニック発作を起こした場合の為に薬を渡しておこう。
一回につき、一錠。
あと、過呼吸の時の対処方も大丈夫だね?」
「ええ…。
ただ、明らかにおかしいと思われる時は、必ず連絡します」
「………ああ。
暴れた時には、千尋を連れて来るから安心してくれ」
「すみません、お手数を…」
「手数なんて思わないよ。
事が事だから、私も放っておけないのだし」
ひたすら恐縮する龍嗣を制し、白川は部屋から出ていく。
さりげなく亮がついていき、控えのドライバーとともにガレージへと向かったようだ。
ソファから立ち上がり、いつも一緒に寝ているベッドに璃音を運ぶ。
「…ん……」
「大丈夫……、いつも通り、一緒に眠ろうな…?」
額に口づけを落とし、毛布をかけてやると、ようやく安心したように意識を手放す。
睫毛に乗っていた涙を吸い取り、腕の中に抱き込んだ体は、より一層愛おしかった。
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