345 / 454
・
「ひっく………、ふ……っ、うぅ…………、えう……」
闇の中に、微かに泣き声が響いている。
吃逆混じりの慟哭だった。
「………誰…だ?」
瑠維が辺りを見回し捜してみても、姿は見えない。
「………痛い、痛いよぉ…っ」
濃密な闇の中にフワリと漂うのは、何なのだろう。
甘いのに、悲しい香りなのだ。
「痛い…痛い……痛いよ…」
ひたん…。
ひたん…。
何か液体が地面に落ちる音もする。
「…っふ、ああう…っ!!」
深い慟哭の声を捜し、何度見回しても、声の主は見つからない。
「………っ、痛い…、痛いよ…、うああ…っ!!」
ひとん。
また、床に伝い落ちた音がした。
「ひあ…、…っふ、あああ…っ!!」
ぴしゃん。
液体の塊が落ちたような音がして振り返ると、そこには小さな子供がいた。
全身傷だらけで、あちこちから血を流している子供…。
「………り…お…、璃音っ!?」
ほろほろと涙を零し全身から血を流す姿に、心臓が鷲掴みにされる。
「…っふ、う……っ。」
ぴしゃんっ。
「………っ!!」
紅い血が内股から床に落ちた。
「痛い…、痛いよ…」
痛さに堪えかね、へたりこむ体を抱きしめてやりたいのに、腕も足も言うことをきかない。
その、璃音の傍に、もう一人人影が現れた。
「………ひッ!!」
その人影を見て、璃音は引き攣ったような声をあげる。
「………璃音…」
「…いやっ!! いやだ、来ないで…来ないでッ!!
さわんないで………!!」
必死でかぶりを振り、触れようとする手を拒み続ける。
璃音が、もっとも愛しいと思う相手だというのに。
「いや………っ!!
さわんないで…、来ないで…、来ないで………ッ!!」
泣きながら、何度も何度も手を払いのけて、璃音は泣く。
全身から血を流しながら…。
「璃音…痛くない…。
もう、怖くないから…な?」
龍嗣に、労るように抱きしめられた瞬間、小さな体が激しく痙攣した。
「ひ…あ…ぁ……、ああああ―――――ッ!!」
断末魔のような叫びをあげ、璃音は全身を強張らせる。
「りおんッ!!」
ピシリとひび割れる音の後…。
カシャ………ン。
傷だらけの体が、小さなカケラになって粉々に割れた。
カシャ…ン、シャラ…ン…。
煌めく硝子のカケラのようになって、璃音が砕け散る。
愛しい龍嗣の腕の中で、妙なる音色を奏でながら、璃音は大気へ溶けていってしまった。
辺りに漂うのは、血の香りのみだった………。
ともだちにシェアしよう!