351 / 454

「やけに念を押すけど、璃音はそんな暴れ方なんかしたりしないぞ?  人に殴りかかったりなんて出来ない奴だったし。」  不思議そうにする瑠維を見て、弓削は携帯の動画を起動した。 「なら、これを見てみるといい。」  差し出された携帯電話の画面には、璃音と弓削が映っている。 「………?」  向かい合わせで立つ璃音と弓削の距離は、2メートルほど。  数秒間合いを取り、先に仕掛けたのは弓削だ。  間髪入れずに繰り出される拳は、早過ぎてはっきり映っていない。  明かに手加減をしていない打ち合いだ。  その拳を、璃音は裏拳で受け流したり、かわしたりしている。  ピシュ!!  弓削が体制を変え、低い位置から蹴りを入れた。  璃音はフワリと飛び上がり、そのまま斜めの体勢で壁を駆け上がり、勢いを付けて弓削の後ろへと回った。 『ちぃっ!!』  綺麗な線を描く廻し蹴りを弓削が繰り出し、璃音はその蹴りをかわして前に回り込む。  ぱしっ!!  空いていた右手を捉え、璃音が地面を蹴る。  フワリ…。完全な一本背負いの型で、弓削の足が浮いた。  ザシュ…ッ!!  芝生の上に弓削が転がった所で、動画は終わった。 「………なんだ、これ…?」  アクション映画のような組み手をしていたのは、本当に弟なのか?  いつものんびりしていて、穏やかな璃音と掛け離れた、信じ難い画像…。 「璃音が鬼夜叉から教わっていた護身術だ。  これはまだ序の口だな。  次はこれを見てみろ」  今度は、向かい合う二人が、何かを手にしていた。 「……?…」  瑠維は目を疑った。  弓削と璃音が手にしていたのは、サバイバルナイフだったからだ。 「一応、刃は潰してある。  それでも、考えられない状況だろうがな…」  苦笑いする弓削が、再生ボタンを押す。  その動画も、信じられないものだった。  小さいナイフにもかかわらず、璃音は弓削の大振りのナイフを弾き飛ばし、逆手で持った得物で弓削の喉元をピタリと押さえたのだから…。  次々見せられる動画は、さらに考えられないものばかりで、瑠維の顔色は蒼白になっていった。自分の身長よりも長い棒を振り回し、もっと長い棒を持って周囲を取り囲んだ大人を、確実に一撃で仕留めていたり。  得物を持った大人を、素手で次々沈めていた。

ともだちにシェアしよう!