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体にはプロテクターすら着けていない。
相手の男達は、分厚い衝撃緩衝ベスト等を着けているというのに…。
合図の音がして、特殊警棒や木刀を持った男達が一斉に踊りかかった。
璃音の頭部や、首筋…、主要な関節に向かって警棒や木刀が振り下ろされる。
勿論、当たればただでは済まないし、場合によっては死に至る。
その、振り下ろされた武器を難無くかわし、腕を取って投げ飛ばす。
床にしゃがみ、地面についた足を軸にして回転し、伸ばした片脚で相手の軸足を払う。
首筋に手刀を落とし、確実に鳩尾を捉える。
次々隊員が沈む中、息も乱さず涼しい顔をして、舞うように動く璃音。
しかも、その小柄な体には一つのダメージを負うことなく…。
5分も立たずに50人の男達が全員床に倒れた所で、動画は終わった。
「分かったか?
璃音はただの子供じゃない。
命が惜しければ、近寄るな」
あまりの光景に、顔色を失った瑠維が俯いた。
「じゃあ…なんで…」
「………?」
「なんで璃音は俺には殴りかからなかったんだ…?
あれだけの事が出来んなら、どうとでも出来たんじゃないのかよ…。」
「兄弟だからだろうな…」
「………?」
「力づくで解決出来るなら、そうしただろう…。
だが、親に一服盛って死に追いやった事を、素直に悔いて欲しかったんじゃないのか?
タイミングを見て、言葉を尽くせば反省してくれると思ったんだろう…。
ま、肝心の腕を封じられたら、抵抗のしようもなかっただろうがな…」
キシ…。
瑠維の心が軋む。
両親と妹達を奪った瑠維に悔いて貰いたい。
しかし、腕づくで責めるのは違うからと最後まで躊躇した璃音。
璃音の想いを無視して欲を通してしまった自分。
「留学したら、そのままマサチューセッツにとどまる腹積もりもあったようだ。
日々、お前が焦れていたのを、鬼夜叉が案じてな…。
想いの深さが違うから、お前が狂うか、璃音が壊されるか、どちらかだろうと…。
近親噛みは、必ずどちらかが死ぬのが常だから、可能性があるなら引き剥がさなければと、鬼夜叉は言っていた」
携帯電話をポケットに仕舞い、弓削はキッチンへ回った。
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