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…ひとん。
大きな手に雫が落ち、いつの間にか泣いていたのだと龍嗣は気づいて驚いた。
「ふ…」
ぐいぐいと涙を拭き、璃音のこめかみに頬を当てる。
携帯電話にも涙が落ちてしまっていたので、慌てて拭いていると偶然電話帳の画面になった。
「………」
龍嗣の下に両親があり、「お父さん」「お母さん」と表示されている。
亡くなったとは言え、登録を抹消していないところが璃音らしいと龍嗣は思う。
入院していた瑠維を背負い、父が遺した負債や会社を何とかしようと頑張った14歳の子供…。
そのいじらしい所が、より一層心をえぐる。
「馬鹿だな…。
自分の息子に一服盛られるなんて…。
だから、いつも詰めが甘いと荊櫻に怒られてたんだろう…?
お前が作った負債は璃音が早々と返してしまったし、それ以上の黒字を出したんだぞ?
本当に…馬鹿だな…」
璃音もこうして、何度両親の電話番号を見たのだろう。
繋がらない筈の番号を見て、助けを求めようとしたかもしれない。
龍嗣にさえ明かせなかった瑠維への想いを抱えて、懊悩した璃音。
泣き笑いのまま、何気なく晶の電話番号をクリックする。
出るはずの無い…接続先の無い番号を。
『RRRRR…』
「………?」
『RRRRR…』
呼び出される筈がないのに、電話の向こうを呼び出している。
プツ。
龍嗣の心臓がバクバクして、ひどく音が遠い気がする。
『もしもし…?』
「………もしもし…」
『………?
どうしたんだい?
今日は随分低い声なんだね、璃音』
「……………ッ!!」
穏やかな、耳に馴染むテノールの声。
それは、紛う事なき人物のもの。
『………ここ何日間か連絡が無かったから、心配していたんだよ?』
その声の向こうでは、微かに赤ん坊の泣く声がする。
「………これはどういう事なのかな…?
きっちり喋って貰わないと、私は納得しないぞ…?」
『え…っ!?
璃音じゃない!?
なんで君が掛けてきてるんだよ?』
「今、璃音は掛けられる状態じゃない。
考える限り最悪の事態なんだッ!!
一体何処に雲隠れしているんだ?
事と次第に寄ってはただじゃ済まさないぞ、晶っ!!」
『えええっ!?』
そう。
電話の向こうは、昨年亡くなった筈の璃音の父、晶だったのだ。
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