357 / 454

 ポケットに入れた携帯電話が震えている。  表示を見ると「着信・エロ魔神」。  主従関係に疑問を持たれそうな呼び方で登録しているあたり、弓削の中の優先順位は崩壊しているかもしれない。 「ちょっと抜ける」  万が一、瑠維に聞かれたら困る案件でも良いように、防音の利いた部屋へ移動した。  一応、瑠維の足には簡単に外れない拘束具が取り付けてあり、リビングの柱にロープが固定されている。  小鳥遊が傍にいるので、逃げる心配も無いだろう。 「お待たせ致しまして、申し訳ありません。  弓削でございます」 『ああ。  中途半端な時間に連絡して済まない。  傍に瑠維はいるか?』 「いえ。  私一人でございます。  施錠したオーディオルームですので、瑠維に聞こえる心配は無いかと…」  あからさまにホッとしたように息をつく龍嗣。 『なら、いい。  手短に話そう。  荊櫻と晶が生きていた』 「………は?」 『いや、ホントに。  信じ難いだろうが、生きていた』  寝ぼけているのか、璃音が心配で壊れたのかこの男は!?と、暫し思案する。  だが、通話中に録音していた会話を、電話越しに聞かされたのだ。  疑うべくもない。 「解りました。  空港へは私が向かいましょう。  ついでに厭味の一つや二つ、それと説教もして宜しゅうございますか?」 『ああ、構わない。  説教なり意趣返しなり、ガッツリしてやってくれ』 「畏まりました。  では、時間を合わせて参ります」 『頼む』 「はい。では…」  通話を切り、暫し息を整える。  耳元でドクドクと鼓動が煩い。  鬼と伴侶が生きていた…それは、璃音の自我を縫い合わせる事が可能になったことを意味する。  璃音が戻れば、瑠維も再び狂い出すだろう。 「肌が馴染むには、あと少し…。  どちらが瑠維を噛むか、だな…」  廊下を歩きながら一人ごちる。  毎夜、仕置きと称して瑠維を嬲っている弓削と小鳥遊。  璃音への執着を少しずつ削り落とすように、二人の精を注ぎ込んでいる。  最初は必死で抗っているが、段々良い声で啼くようになった。  その瑠維をどうするのかも、鬼夜叉と晶に確認せねばなるまい。  あくまで瑠維には内密に事を運びつつ、璃音から身も心も引き剥がす必要があった。

ともだちにシェアしよう!