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 弓削と水上夫妻が氷室邸に到着したのは、夜の8時過ぎだった。 「………本当に足が付いてるんだよな…?  夢じゃないんだな?」  玄関で出迎えた龍嗣は、信じられない気持ちのまま、夫妻を招き入れる。 「…大丈夫、生きてる。  紛らわしい真似をして、本当にごめん」 「その事はもういい。  先ずは、璃音を診てやって貰えないか?  今は深く眠ってるから…」  挨拶もそこそこに、龍嗣と弓削は夫妻を寝室へと案内した。  いつも二人で休んでいる寝台に、璃音は寝かされていた。  呼吸はかなり深く、ピクリとも動かない。  寝息は穏やかで、普通にすよすよと眠っているようにも見える。  双子を広いベッドの上に降ろし、晶と荊櫻は璃音の両脇に膝をついた。 「ふー……ん。  晶譲りの媚香が完全に消えたというのは、本当だったんだな。  ここまで完全に伴侶を固めた状態で横槍を喰らったんなら、自我が割れるのも仕方ない…か」  璃音の額に手を当て、荊櫻は意識の流れを探る。 「どう………?  掴めそうかい?」  向かいに立つ晶は、璃音の手を掴んで事態を見守っている。 「………………ん、ちょっと待て。  ん……、んんん……?」  暫く璃音の精神の海を探った荊櫻は、ゆっくり体を起こした後、渋面をこしらえた。 「……………なんだ?あれは………。  つか、どれだけ拗ねまくってるんだか…」 「荊櫻、どうだった?  縫い合わせできそうかな…」 「………出来…なく…は、無い…な。  ただ、かなり手間がかかりそうだ」 「………そんなに酷いのかい?」  気遣う晶を見遣り、荊櫻は軽くため息をつく。 「普通なら、硝子の破片みたいなサイズがある筈なんだ。  イメージで言うと、大体5センチ四方位の。  それが、これの中にはまったく無い。  何に例えたらいいのか…、……ああ、あれだ、砂漠」 「砂漠?」 「砂漠の砂みたいに細かい。  しかも、虚無まで同じくらいに細かく砕いてダミーにしてる。  意識と虚無の砂をかなり混ぜまくってるから、一粒一粒拾うのは、かなり手間だな…。  晶………、一応、覗いてみるか?」  荊櫻の問いに、晶が頷いた。  両親の様子を、ベッドの上に寝かされた双子もじっと見ている。  状況は、良好とは言い難いようだった。

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