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 暗い闇の褥は、散り散りになった璃音を包み込んでくれた。  思い出したくない嫌なことを考えずに済むし、時々、大好きな人の気配を何と無く感じることもできる。  やんわりと包む闇の中で、ずうっとたゆたったまま、朽ちて行けばいい…。  虚無と闇を溶かしこんだ水の中で、璃音は丸まって眠り続けた。 『ん、んん……?』  聞き慣れた声がして、闇の中に強烈な光がいきなり飛び込んできた。 『何だ…? やけに細かい…、つか、何処に隠れてんだ…!?』  漆黒の闇の水底から見上げると、自分とよく似た顔がある。 『…お…かあさん…?』  それは、確かに自分の母の顔。 『うわ、本当だ…。  粉々の砂みたいだ…。  砕くにしても程があるだろうに…』  今度は、父だった。 『…だめ。  僕はもう、このままがいいんだもの…』  璃音は、一層虚無の渦の中に身を潜めて、小さく小さく丸まって隠れた。 「「………っは…」」  璃音の精神の海から二人が同時に帰って来た。 「………あんのバカ、余計に深く潜ったな!?」 「いやはや、大した強情っ張りだなぁ…。  欠片まで色を同化させて隠れてる。  あれは、絶対出て来ない気でいるね」 「拗ねまくりやがって!!  意地でも引きずり出してやる!!  ついでに、ケツも叩いてやるぞ!!」  呆気に取られる龍嗣と弓削をサックリ無視をして、荊櫻は再度璃音の中へと潜った。 「…晶、璃音はどうなってるんだ…?」  恐る恐る聞くと、晶は苦笑いをして振り向く。 「いや…、その、自我を砂漠の砂並に砕いていてね…、精神世界の中に散らばってる。  しかも、ダミーと色や気配を同化させてるから、物凄く捜し辛いんだ。  他のダイバーが見抜けないのも仕方ないよ…。  龍嗣以外の人間に食べられたのがショックだったんだろうけど、ここまで徹底して隠れてるってのは…。  初めてだよ、こんなの」  璃音の額に手を当てて覗き込んでいる荊櫻は、文字通り鬼のような顔をしている。  反対に、璃音は更に深く寝入っているようだ。 「あっ、クソっ!!  ちょこまかちょこまかと…っ!!  逃げんな、コラ!!」  たまに呟く言葉は、苛立ちに満ちている。  流石に手こずっているらしい。  荊櫻の額には、汗が次々と滲み始めていた。

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