364 / 454
・
暗い闇の褥は、散り散りになった璃音を包み込んでくれた。
思い出したくない嫌なことを考えずに済むし、時々、大好きな人の気配を何と無く感じることもできる。
やんわりと包む闇の中で、ずうっとたゆたったまま、朽ちて行けばいい…。
虚無と闇を溶かしこんだ水の中で、璃音は丸まって眠り続けた。
『ん、んん……?』
聞き慣れた声がして、闇の中に強烈な光がいきなり飛び込んできた。
『何だ…? やけに細かい…、つか、何処に隠れてんだ…!?』
漆黒の闇の水底から見上げると、自分とよく似た顔がある。
『…お…かあさん…?』
それは、確かに自分の母の顔。
『うわ、本当だ…。
粉々の砂みたいだ…。
砕くにしても程があるだろうに…』
今度は、父だった。
『…だめ。
僕はもう、このままがいいんだもの…』
璃音は、一層虚無の渦の中に身を潜めて、小さく小さく丸まって隠れた。
「「………っは…」」
璃音の精神の海から二人が同時に帰って来た。
「………あんのバカ、余計に深く潜ったな!?」
「いやはや、大した強情っ張りだなぁ…。
欠片まで色を同化させて隠れてる。
あれは、絶対出て来ない気でいるね」
「拗ねまくりやがって!!
意地でも引きずり出してやる!!
ついでに、ケツも叩いてやるぞ!!」
呆気に取られる龍嗣と弓削をサックリ無視をして、荊櫻は再度璃音の中へと潜った。
「…晶、璃音はどうなってるんだ…?」
恐る恐る聞くと、晶は苦笑いをして振り向く。
「いや…、その、自我を砂漠の砂並に砕いていてね…、精神世界の中に散らばってる。
しかも、ダミーと色や気配を同化させてるから、物凄く捜し辛いんだ。
他のダイバーが見抜けないのも仕方ないよ…。
龍嗣以外の人間に食べられたのがショックだったんだろうけど、ここまで徹底して隠れてるってのは…。
初めてだよ、こんなの」
璃音の額に手を当てて覗き込んでいる荊櫻は、文字通り鬼のような顔をしている。
反対に、璃音は更に深く寝入っているようだ。
「あっ、クソっ!!
ちょこまかちょこまかと…っ!!
逃げんな、コラ!!」
たまに呟く言葉は、苛立ちに満ちている。
流石に手こずっているらしい。
荊櫻の額には、汗が次々と滲み始めていた。
ともだちにシェアしよう!