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いつもの深層ダイブなら、こんなに手こずったりしなかった。
一筋縄ではいかない縫い合わせを、どう進展させるか考えるだけで気が重い。
「ちっ…」
ズキズキする額を押さえ、荊櫻はゲストルームのベッドに倒れ込んだ。
思わぬ事態が引き起こした璃音の自我崩壊。
何度ダイブを繰り返せば、璃音を元にもどせるのだろう。
見込みが立たない。
それだけに、余計に腹が立った。
「鬼夜叉、少し宜しいですか?」
ベッドサイドに立った弓削が、徐に声をかける。
「………うるさい…。
今日はもう勘弁しろ」
地獄の底から響くような声で応える荊櫻。
「直情馬鹿の事でもですか?」
「………」
サックリ撫で斬りする言葉を聞き、荊櫻はゆらりと起き上がった。
「瑠維のことか…」
「ええ…」
話すのも億劫だが、聞かねばなるまい。
もう一人の息子に関わる話だ。
ベッドの上に胡座をかき、弓削を見上げた。
「………で。
ジャジャ馬馴らしの経過はどうなんだ…?」
「3割…といった所です。
あれに対する執着が深い分、中々浸透していません…」
「珍しいじゃないか。
お前がそんな弱気な言い方をするなんて。
で…、お前と玲のどっちが噛むんだ?」
「一応、玲が噛む予定なんですが…」
「無理じゃないのか?
あれ一人で埋め切れるもんじゃないだろう?」
「…やはり、そう見ますか…」
「そりゃ、そうだろう?
璃音を手に入れる為に、親や妹を殺そうとしたんだぞ?
生半可な執着じゃない。
それを無理矢理方向修正するなら、かなりの荒療治になる筈だ」
ふー…っ。
深い息をつき、弓削を見る。
「かなり嬲った後やわやわと扱って、絆されるようにしてるんですがね…」
「アメとムチか?」
「ええ…」
「………甘いな。
それだけで、あれが傾倒する訳ないだろ?
メリハリをつけないと、徒に時間が過ぎていくだけだ。
単に嬲るだけじゃなく瑠維のプライド自体も侵食して、自分から蕩けるように持っていけばいい」
「それが難しいんですけどね…」
「確か、本家にかなりの鬼畜な奴がいた筈だ。
あれに聞いたらどうだ?
どう責めるかは任せるが、二人伴侶の方が攻略しやすいと思う」
すまんな、と、荊櫻は自嘲気味に笑った。
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