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 翌日から、瑠維と璃音のバランス調整が始まった。  弓削と小鳥遊に責められて、少しずつ瑠維のガードが緩んできて、晶が潜れるようになり。  瑠維の状態に合わせて璃音の自我を拾っていく日々が続いた。  万が一を考え、氷室邸の帰りに念入りにシャワーを浴びる弓削を龍嗣が訝しむ。 「そんなに念入りにしなくていいだろう?」 「いえ。  瑠維に鬼夜叉の香りを嗅がせる訳にはいきません。  両親が存命と分かれば、また執着が深くなりかねませんし。  避けられる危険は、出来るだけ避けた方が賢明だと思いますので。」 「手間をかけさせて、すまん」 「いえいえ。  手間が増えた分、あれに意趣返しして憂さ晴らししておりますから、旦那様はお気になさらず」  シャワーの後に別のスーツに着替えて、弓削は瑠維を隔離している別邸へと戻っていった。  階段を上がり、寝室に戻る。  寝台に横たわる璃音の両脇に双子がいた。  器用に寝返りをして、璃音の頬をぺちぺち叩いている。  まるで「兄ちゃん、おきなちゃい」と言っているようだ。  そのうちの一人を抱っこして、龍嗣はベッドの端に座る。 「璃音に起きろって言ってたのかい?」 「あうー」  龍嗣の服を握り、キュッと引っ張りながら、雲母(きらら)が笑った。 「こうやって見ると、君達は璃音の小さい頃に良く似てる。」 「だうー?」 「ああ。とても似てる」 「あーうー」  まるで会話をしているような喃語で返して来る雲母。  ぺちぺちと頬を叩かれていると、一息ついた荊櫻が入って来た。 「ほう?  あんまり人に懐かない雲母が笑ってるな。  お前、赤ん坊にもフェロモンを振り撒いてるのか?」 「…誰が撒くか」 「しかし、変われば変わるもんだ。  来るもの拒まず、去るものは追わずで取っ替え引っ替えしてた人間が、本当に璃音だけに囚われるなんて、質の悪い冗談かと思ったぞ」 「自分自身も信じられん。  璃音以外に欲情すらしなくなったからな…」 「そうか…。  なら、親としては嬉しい限りだ。  これが戻って来れたら、たっぷり可愛がってやってくれ。  つまみ食いされて、随分拗ねてるからな」 「…ああ」  力無く横たわる璃音の頬は、少し赤みを増したように見える。  間違いなく回復へと向かっているのだと、二人は感じていた。

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