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キシ…。
心も体も軋むような気がした。
『そのまま、すこしじっとしてて』
言葉通りにじっとしていると、腕の中の璃音の表情が和らいでくる。
『龍嗣…』
幼い璃音が、龍嗣の頬に手を伸ばしかけて躊躇する。
「何で手を止める?」
『だって…』
ほろほろと涙を零す璃音を、ギュウッと龍嗣が抱きしめた。
『だって僕、龍嗣以外の人間に…っ』
次々溢れる涙が地面に落ち、水琴窟のような音が響く。
「あんなもの、野良犬に噛まれたようなものだ。
それに、君は私が過去に次々恋人を取っ替え引っ替えしてたのを忘れてないか?」
『それとこれとは違うよ…』
「いいや、違わない。
私の過去はサックリとスルーで、自分の事は許せないなんておかしいだろ?
君が進んで抱かれた訳じゃないし、小鳥遊さん達も一服盛られていた。
拘束されて無理矢理奪われたんだから、同意の上の事でもない。
なら、君の過失じゃない。
私が君を責める必要もないじゃないか」
『龍嗣だけの僕でいたかったんだもの。
なのに、なんにもできないまま瑠維に…。
だから、龍嗣は良くても、僕は僕が許せな…っ、んッ…』
龍嗣は、ボロボロ泣く璃音の頬をつまみ、軽くムニムニしてみせた。
『にゃ、にゃにしゅるの…?』
「自分を卑下するからお仕置きだ」
お仕置きと言う割には、優しく頬に触れる。
「あんまり自分を責め過ぎるんじゃない。
君の両親が生きていると気づかなかったし、離れ難くした君を置いて出かけた私が悪いんだ」
『龍嗣は悪くない。
悪くなんかないよ…っ』
「私から見れば、璃音は何も悪くない」
『ちが…っ!!』
「違わない。
璃音は悪くない。
だから、璃音の事を怒ってないし、嫌う理由もない。
璃音は自分を責める必要は、何ひとつない。
だから、戻って来てくれ」
『………っ!!』
「直ぐじゃなくても…傷が治ってからでいい。
必ず私の所に帰っておいで。
………いいね?」
『……っ』
「君は、本当に強情だから、少し意地悪をしておこうな…?」
『………?』
不思議そうに見上げた璃音の肩を掴み、龍嗣は細い首筋を軽く噛んだ。
『……っ!?』
次いで、ソロリと舐め上げる。
「今度は、私から求愛しておくぞ」
クスクス笑ってみせる龍嗣に、璃音は羞紅した。
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