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カクリとくずおれかけた瑠維を、小鳥遊が後ろから支えた。
口腔にたっぷり注がれた白蜜を数回に分けて飲み下し、唇と舌で締め付けて楔の中に残る蜜も瑠維は受け止める。
「普通は吐き出す物なんだがな…。
仕方のない奴だ」
漸く顔を上げた瑠維の頬を撫で、弓削が苦笑いした。
「だって、残さず飲めって言ったのは、あんたたちじゃ…」
口の端に残る蜜を手の甲で拭い、一息つく。
「そういえばそうだったな。
………来るか?」
「………ん」
差し出された手を取ると、心得た様に小鳥遊が楔を引き抜く。
「ふ…………ぁっ!!」
一気に引き抜かれてよろけた瑠維を、弓削が腕の中に抱き寄せた。
「すっかり馴染んでんな…」
「そうだな…」
弓削の肌に頬を擦り寄せ、微かに咽を鳴らす瑠維は、木天蓼に酔う子猫のようだ。
「………っふ…あっ!!」
まどろみかけた瑠維に、二人が口づけを落とす。
競うように唇を奪い、頬や額、瞼も啄む。
「ん………っ、や…あう…っ」
咽を反らしたところで、同時に細い首筋を甘く噛まれ、瑠維の身も心も満たされていく。
最上の幸せを感じれば感じるほど、自分が璃音にしてしまった事の酷さを思い知る。
こんなふうに満たし満たされる相手を得たなら、他の人間は欲しくなくなる。
なのに。
沢山殴って、碌に解しもしない後蕾に捩じ込んだ。
やめてと泣いたのに、精を注いでしまった。
そして。
自我を壊してしまった…!!
『璃音…。
璃音、ごめん…。
ごめん…………っ!!』
謝って済む話しじゃない。
赦して貰える筈がない。
あの穏やかな笑顔も、優しい心も、戻って来る保証すらありはしないのに。
今、本心からの謝罪をしたいと思う、そんな身勝手さを思い知る。
『父さんや母さん、妹達を殺してしまった俺を…。
幸せを奪った俺を赦してくれなくていいから、せめて戻って来てくれよぉ…』
ほろほろ落ちる涙を、二人は唇を当てて吸い取ってくれる。
こうなるのが判っていたなら、自分は璃音を想わなかったろうか…?
自分を欲しいと言っていた誰かと番いになっていたなら、両親も妹達も、璃音も無事でいただろうか…?
沢山の後悔に、心臓が押し潰されそうな気がして、瑠維は零れる涙を堪えきれなかった。
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