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『……龍嗣…?』
荊(いばら)の檻の中で、璃音が身じろいだ。
体を少し動かしただけでも肌に鋭い棘が当たり、あちこちに傷ができる。
それでも構わず身を起こし、ジクジクと痛む胸に手を当てる。
『龍嗣…泣いてる…?』
何処から漂って来ているのかは判らないけれど、これは龍嗣の涙の香りなのだと璃音は思った。
誰よりも一番………。
龍嗣が、好き。
幼い自分を受け入れてくれた。
朝も、昼も、夜も、顔を合わせる度に甘い口づけをくれた。
璃音が望んでも、決して手に入らないのだと思っていた沢山の事を叶えてくれた、愛しい人…。
生涯、唯一人の伴侶なのだと思う程、愛しい。
愛しくて愛しくて、本当に愛しくて仕方ない。
こんなに深い情を抱かせてくれた龍嗣を、悲しませたり苦しませたくなどなかった。
『龍嗣………』
涙が次々溢れて止まらない。
いますぐ腕を伸ばして抱きしめたい。
あの柔らかな髪に口づけを落とし、龍嗣の気の済むまで腕のなかで甘やかしてしまいたい。
…でも。
瑠維によって開かれて凌辱された体で、どうやって抱きしめられようか。
貫かれただけでなく、白濁した精まで注がれて穢れた自分が、どうしてあの愛しい男の前に立てようか…。
「これで君を棄てるなんて思うなよ…。
君に対する愛情が、こんな事で揺らいだり、薄れる訳が無いんだからな?
君が何と言おうと絶対離さないし、何処にも逃がしてやらない」
そう言い切り、璃音に対していつも寛容にしてくれる龍嗣は、穢れた事すら赦してくれた。
それでも。
璃音は、弱い自分の事が許せないのだ。
ギシギシ。
ギシギシ。
璃音を取り巻く荊の蔓が動きだし、傷だらけの体に巻き付き始める。
ギリリ…。
肌に棘が刺さり、あちこちら血が噴き出す。
『…っふ………っ』
棘だらけの蔓に締め上げられて、璃音ははくはくと喘ぐ。
龍嗣に対する想いの固まりのような自我の部分を徹底的に痛め付け、更に小さく砕いてしまえばこれ以上誰も煩わせずに済む。
あと少しで霧散出来そうな状態に追い込めたから、程なく恋慕の情の部分を壊して、自我の再生も阻める…。
歯を食いしばり、璃音は棘だらけの蔓がもっともっと絡み付いて来るように、掌で握りしめた。
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