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 璃音の腹部に出来た傷は、皮膚だけではなく内部にまで及んでいた。 「多分、自我の核の腹に何かを刺したんだろう。  体にあらわれている傷は、全部核に与えてるダメージそのものの筈だから…」 「………ッ!!」  晶の言葉に、龍嗣の血の気が引いていく。  緊急搬送された病院で、璃音は直ぐに手術室へと運ばれた。  腹部の傷が、表面のみならず、胃や肝臓にまで及んでいたからだ…。  首筋に浮いていたミミズ腫れも血を噴き出して、状況は決して良好とは言えない。 「何故だ…。  何故、そんなふうにして…」 「結婚まで考えた龍嗣以外の人間に、体を奪われたんだ。  龍嗣に対して申し訳無いっていう気持ちと、自分で自分が赦せないっていう気持ちが強いんだよ。  龍嗣が好きで好きで堪らない分、体を奪われた事に耐えられなかったんだ…。  拘束されてたから仕方ない事とは言え、璃音には受け入れ難かったんだと思うよ、龍嗣」  ゆっくり話す晶の言葉に、龍嗣は拳を握り締める。 「…前の晩」 「…ん……?」 「あの日の前の晩…、学園祭の後に、研究室で璃音を抱いたんだ。  一ヶ月ぶりで、それこそお互いケダモノみたいに抱き合った。  事件の日も、目が覚めてから……、それと、家に帰る前に水上の屋敷に寄った時も…。  抱いても抱いても足りなくて、お互いが欲しくて欲しくて仕方なかった。  躯を繋いで、数え切れないくらいに…、好きだ、愛してると……っ、囁き合ったんだ…。  なのに…。  数時間しか経たないうちに、あんな事になるなんて…っ」 「………龍嗣にがっついて貰って、本当に璃音は幸せだったんだね…」 「………」 「各務の子供は、伴侶への情が深い…。  その中でも、璃音の情はもっと深かった。  同じ位の深い愛情で応えられていたから、一ヶ月ぶりに躯を繋いで、際限無く啼かされて、嬉しかったんだろう。  いっぱい抱きしめて貰えて、飽きる事無く繋がって…。  璃音にとっては、有り得ない位の幸せな時間だったんじゃないかな」 「………」 「それが一転、瑠維に奪われた。  龍嗣との幸せな時間を抱いて、いっそ眠ったまま逝こうと思ったんだろう…」 「あれは、事故だと…。  気にしなくていいと…、私の気持ちは、絶対に変わらないと伝えたのに…」  俯いた龍嗣は、白くなる程に拳を握り締めた。

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