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「でも…。
それでも思うんだ」
「………?」
「あれだけ幼かった璃音が、一生添い遂げたいと思う相手を見つけてさ…。
自分を殺してしまおうと思う程に龍嗣を深く愛したんだよ?
最上級の幸せを感じる事が出来てたんだからね…。
親としては、嬉しかった」
「だが…」
「大丈夫。
穢れた事を嘆いて死を選ぼうとしてたとしても、璃音は決して龍嗣を道連れにしたりは出来ない。
伴侶の無事や幸せを、一番最優先してしまうのが璃音の筈だよ」
悄然とする龍嗣の肩を、晶が軽く叩く。
学生の頃と全く変わらない、穏やかな笑み…。
「人の心の機微に疎い璃音が、禁断症状を起こす程深く愛したんだから、自信を持って欲しい。
今、ギリギリの所で璃音を連れ戻せるのは、龍嗣以外の誰でもない………ってね。
さ、荊櫻と双子の準備が出来たようだ。
そろそろ潜ろうか?龍嗣…」
「…ああ」
晶と龍嗣が立ち上がると、看護士が集中治療室のドアを開けた。
個室ゾーンの廊下には、荊櫻と双子、医師や看護師達がいた。
「多分、あれを引き留める最後のチャンスだと思う。
私達が潜った後、璃音の容態は医師チームが管理してくれる。
これ以上馬鹿な真似をする前に、あいつを見つけるぞ。
用意はいいか?エロ魔神」
「………ああ」
「多分、お前にしか見付けられない。
頼りにしてる。 行くぞ」
「任せろ。
今日こそ捕まえてみせる」
個室に入ると、酸素マスクを着けられた璃音が横たわっていた。
容態は安定しているものの、いつ急変してもおかしくない。
乳児用のベッドにいる雲母と翡翠に目配せをし、龍嗣と荊櫻も璃音の傍らにスタンバイをした。
「雲母、翡翠」
「「だあう~」」
「エロ魔神を繋いでやれ」
「「だぁ~」」
そっと目を瞑ると、意識が海のなかに包まれるような感覚がきた。
サワ………。
南国の海のような明るい水から、深海の底へと滑り落ち、青いヴェールの重なりを抜ける。
ひとん。
聞き慣れた水琴窟の音がして、璃音の中へ着いたのだと分かった。
「りょーたん」
「翡翠か?」
「うん。
きょうは、ひぃたんもおてつだいするね」
「よろしく頼む」
息をひとつ、深く深く吸う。
璃音を捕まえる、最後のチャンスを逃さないために。
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