404 / 454

「でも…。  それでも思うんだ」 「………?」 「あれだけ幼かった璃音が、一生添い遂げたいと思う相手を見つけてさ…。  自分を殺してしまおうと思う程に龍嗣を深く愛したんだよ?  最上級の幸せを感じる事が出来てたんだからね…。  親としては、嬉しかった」 「だが…」 「大丈夫。  穢れた事を嘆いて死を選ぼうとしてたとしても、璃音は決して龍嗣を道連れにしたりは出来ない。  伴侶の無事や幸せを、一番最優先してしまうのが璃音の筈だよ」  悄然とする龍嗣の肩を、晶が軽く叩く。  学生の頃と全く変わらない、穏やかな笑み…。 「人の心の機微に疎い璃音が、禁断症状を起こす程深く愛したんだから、自信を持って欲しい。  今、ギリギリの所で璃音を連れ戻せるのは、龍嗣以外の誰でもない………ってね。  さ、荊櫻と双子の準備が出来たようだ。  そろそろ潜ろうか?龍嗣…」 「…ああ」  晶と龍嗣が立ち上がると、看護士が集中治療室のドアを開けた。  個室ゾーンの廊下には、荊櫻と双子、医師や看護師達がいた。 「多分、あれを引き留める最後のチャンスだと思う。  私達が潜った後、璃音の容態は医師チームが管理してくれる。  これ以上馬鹿な真似をする前に、あいつを見つけるぞ。  用意はいいか?エロ魔神」 「………ああ」 「多分、お前にしか見付けられない。  頼りにしてる。 行くぞ」 「任せろ。  今日こそ捕まえてみせる」  個室に入ると、酸素マスクを着けられた璃音が横たわっていた。  容態は安定しているものの、いつ急変してもおかしくない。  乳児用のベッドにいる雲母と翡翠に目配せをし、龍嗣と荊櫻も璃音の傍らにスタンバイをした。 「雲母、翡翠」 「「だあう~」」 「エロ魔神を繋いでやれ」 「「だぁ~」」  そっと目を瞑ると、意識が海のなかに包まれるような感覚がきた。  サワ………。  南国の海のような明るい水から、深海の底へと滑り落ち、青いヴェールの重なりを抜ける。  ひとん。  聞き慣れた水琴窟の音がして、璃音の中へ着いたのだと分かった。 「りょーたん」 「翡翠か?」 「うん。  きょうは、ひぃたんもおてつだいするね」 「よろしく頼む」  息をひとつ、深く深く吸う。  璃音を捕まえる、最後のチャンスを逃さないために。

ともだちにシェアしよう!