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「璃音」
「………」
「戻っておいで」
ほろりと、涙が落ちる。
「でも…っ」
ふるふると頭を振り、涙を零す璃音。
「瑠維の事を忘れろとは言わない。
忘れろと言えば、きっと璃音は余計に思い出して苦しむだろう?
でもな。
璃音がどんなふうでも、私には一番大事な相手に変わりはないよ。
例え体を奪われたとしても、気持ちは全部私のものだろう?」
「………っ」
「不可抗力の状態で無理矢理襲われたんだから、璃音は悪くない。
私がそれでいいと言っているんだから、聞き分けてくれないかな…」
吃逆混じりの泣き声が耳を打つ。
「………龍嗣だけの僕でいたかったよ。
気持ちも体も、全部、龍嗣だけの僕でいたかった」
「判ってる…」
『水上の中でも最も執着が深い各務の子供は、生涯だだ一人の人間を愛して総てを捧げる』
弓削が言っていた。
『ましてや、物心もつかない内に噛んだ相手と相愛になった状態で凌辱されたなら、多分生きてはいけないだろう』…と。
たった一人だけの為に生きたいと願う人間の想いや、奪われたことで心が引き裂かれたのだとしても。
生きて傍にいてもらいたい…。
身勝手な願いを抱いてしまったから…。
「穢された…合わせる顔が無いと思うかもしれない。
だが、あれは出会い頭の事故か、野良犬に噛まれたようなものだ。
私が気にしないと言うのだから、それで聞き分けてくれないか…」
「………」
「璃音にとって、私は初めての相手だろう?
でも、私はどうなる?
一ヶ月と持たずに相手を替えて、エロ魔神と言われたくらいだ。
その私の事はスルーで、自分だけを責めるのは、どうなんだ?」
「でも…、龍嗣…」
涙に濡れる頬に口づける。
「もういいんだ、璃音。
二度と自分を責めるな…。
あんなふうに酷い目には合わせたりしないし、璃音を傍から離さないからな…?
ずっと傍にいろ。
総ての想いを璃音に向け続けるから…。
生きて、傍にいつづけてほしい。
いや、傍に"いろ"」
「……………はい。
……………っ、あ……っ!!」
反射的に応えてしまっていた。
最愛の伴侶には、決して逆らえないから…。
「いい子だな、璃音」
優しく落とされた口づけは、どこまでも甘かった。
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