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 粉々に砕けた自我を縫い合わせてから、璃音の容態は安定していった。  半月後には、呼吸器も外され、経過は順調で。  龍嗣は仕事を終えると必ず病室に来て泊まり、朝になれば璃音に口づけを落としてから出勤していった。  季節は移ろい、一年が過ぎ。  その日も、龍嗣は真っすぐ璃音の病室へ帰って来た。  ベッドの端へ片膝を乗せ、額に口づけを落とす。  チュ…ッ。  いつもの、ただいまのキス。 「ただいま、璃音」  悲しさが消え、甘い香りが鼻を擽る。  愛しい璃音の香りは、日に日に甘く蕩けるようなものへと変わっているのに、未だに意識は戻らない。  それでも。  璃音を待ち続ける気持ちは変わらない。  何年でも待っていると心に決めたのだから…。  いつものストレッチを終え、璃音の体を拭いたタオルと洗面器を持って洗面台へと足を向けようとしたその時。 「………り……」 「……………?」  誰かの声がした。  後ろを振り返ってみたが、誰もいない。 「………りょ……じ……」  服を引っ張られる感触がして、心臓が飛び上がる。 「……………っ!?」  まさか。  本当に…?  逸る気持ちを抑え、ゆっくり向き直る。 「………璃……音……?」  閉じられていたはずの瞼が持ち上がり、ゆるゆると漆黒の闇色の瞳が自分を見上げていた。 「璃音、本当に…?」 「………お…はよ…」  にこぉっ、と笑う顔は、確かに璃音だ。 「おか……え…り…、璃音」 「ただいま…、龍嗣…」  少し掠れていても、少年特有の声は変わらない。  漸く、璃音は龍嗣のもとへと還ってこれたのだった…。

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