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約一年間の昏睡から目覚めた璃音を待っていたのは、沢山の精密検査とリハビリだった。
意識が無かった間、龍嗣がまめにマッサージやストレッチをしていたとはいえ、やはり筋力は衰えていた為だ…。
「で、今日は何をやらされたんだい?」
「マーシャルアーツだよ。
まだ本調子じゃないから、手加減してもらったけど…」
二人で夕食を食べながら、その日あった事を話す。
それすらも、一時期は有り得ないと思ったものだった。
「なかなか、君のお母さんは手厳しいな…。
いきなりマーシャルアーツなのかい?」
「"それくらい当然だろ?"って。
鈍った体は、さっさと治さなきゃダメだって言ってた」
「あまり無茶はするなよ?
ああ、精密検査の結果を聞いてきたよ。
全て良好だから、明日からリハビリ棟に移っても構わないそうだ。
東側のコテージタイプの部屋だから、引き続き私も泊まれるらしい」
「入院費とか、大丈夫…?
僕、心配なんだけど………」
「それについては、気にしなくていいよ。
可愛い婚約者に、入院費用の心配をさせるような甲斐性無しじゃないからね。
それと、次期院長のご好意というのもあるか…」
「………?」
「白川先生のところの…小鳥遊先生がね…。
彼が、自分の伴侶の不始末のせいだからと、かなり便宜を計ってくれたんだ。
弓削と二人…瑠維の伴侶になったそうだからね…」
「………え?」
璃音は、驚いて箸を取り落とした。
「弓削さんと、玲が…?」
「ああ。
二人とも、璃音の伴侶候補だったことも聞いたよ。
君にとっては、二人が突然瑠維の伴侶になって驚いただろうけれど…。
素直で忠犬タイプの君とはかなり違うが、微妙な捻くれ具合が堪らなくて、落とし甲斐があったそうだ」
「………そう…なんだ…」
「誰かに無理矢理に瑠維を選ばされた訳じゃない。
自分たちは、何ひとつわだかまりを持つことなく瑠維を選べたと言っていた。
だから、璃音は気にする必要は無いともね…」
複雑な気持ちだ。
自分が眠っていた間に、弓削や玲が瑠維を嬲った事も。
その過程で、二人が瑠維の首筋を噛んで求愛し、瑠維も受け入れたという事も…。
総ては、自分が見えない所で、自分にとって都合の良い方向へ動いていたのだから…。
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