419 / 454
・
『……っ、璃…音さま…っ!?』
『璃音………!?』
『や、嫌…、見な…いで…
うああ――――――っ!!』
生々しい記憶にカタカタ震える手を見て、龍嗣がタブレットをテーブルに寄せた。
青ざめた璃音は、全身を硬直させ息が荒いままだ。
「まだ、少し時間が必要だな…」
弓削達には一年間経っている事でも、璃音にとっては違う。
意識が無かったのだから、まだまだ鮮明な記憶なのだ。
昏睡していた間に体は幾分背丈が伸びて成長していても、精神的な方はベストな状態には程遠い。
度々フラッシュバックを起こしているし、安定してもいない…。
頭では「瑠維を許そう」と思っていても、心身に刻まれた恐怖が璃音を苦しめているのだ。
「璃音、少し我慢してくれよ…」
ガチガチの体を抱き寄せ、膝に乗せて椅子に腰を下ろす。
心臓の真上に耳を当てさせ、そうっと囁いた。
「ゆっくり鼻から息を吸ってごらん」
すぅ………………。
「肺が満杯になったら、今度は、口からゆっくり吐いてごらん」
ふぅ………………。
「もう一度、鼻から吸って…、口から息を吐く…………。
上手だ……………。
もう一度…」
腹式呼吸を、ゆっくり、ゆっくり繰り返す。
強張っていた体が、少しずつ解れてゆくのがわかるが、龍嗣はそのまま声をかけ続けた。
すぅ………………。
乱れた呼吸が穏やかになり、璃音はトロトロと眠りに落ちてゆく。
いつものようにフラッシュバックを起こし、過呼吸になりかけたのだろう。
額に口づけると、深く寝入ってしまった。
「ゆっくりお休み…」
完全に寝息のリズムが深くなるのを待ち、衣服を緩めてからベッドに横たえる。
体勢を直し毛布をかけようとしたのだが、シャツの端を璃音が掴んでいたのに気がつき、そのまま隣に横になった。
16歳になっても、龍嗣の服を掴んで眠る癖は変わらない。
まだ体を繋ぐ事には抵抗があるようだが、こうして甘えを見せてくれるのが嬉しい。
「堪え性の無い私が待つ事を覚えたのも、全部璃音のおかげだな」
クスクス笑い、龍嗣は璃音の髪を指で梳く。
暫くの間、優しく撫で梳いてやりながら、龍嗣自身もトロトロと眠りに落ちていった。
ともだちにシェアしよう!