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『……っ、璃…音さま…っ!?』 『璃音………!?』 『や、嫌…、見な…いで…  うああ――――――っ!!』  生々しい記憶にカタカタ震える手を見て、龍嗣がタブレットをテーブルに寄せた。  青ざめた璃音は、全身を硬直させ息が荒いままだ。 「まだ、少し時間が必要だな…」  弓削達には一年間経っている事でも、璃音にとっては違う。  意識が無かったのだから、まだまだ鮮明な記憶なのだ。  昏睡していた間に体は幾分背丈が伸びて成長していても、精神的な方はベストな状態には程遠い。  度々フラッシュバックを起こしているし、安定してもいない…。  頭では「瑠維を許そう」と思っていても、心身に刻まれた恐怖が璃音を苦しめているのだ。 「璃音、少し我慢してくれよ…」  ガチガチの体を抱き寄せ、膝に乗せて椅子に腰を下ろす。  心臓の真上に耳を当てさせ、そうっと囁いた。 「ゆっくり鼻から息を吸ってごらん」  すぅ………………。 「肺が満杯になったら、今度は、口からゆっくり吐いてごらん」  ふぅ………………。 「もう一度、鼻から吸って…、口から息を吐く…………。  上手だ……………。  もう一度…」  腹式呼吸を、ゆっくり、ゆっくり繰り返す。  強張っていた体が、少しずつ解れてゆくのがわかるが、龍嗣はそのまま声をかけ続けた。  すぅ………………。  乱れた呼吸が穏やかになり、璃音はトロトロと眠りに落ちてゆく。  いつものようにフラッシュバックを起こし、過呼吸になりかけたのだろう。  額に口づけると、深く寝入ってしまった。 「ゆっくりお休み…」  完全に寝息のリズムが深くなるのを待ち、衣服を緩めてからベッドに横たえる。  体勢を直し毛布をかけようとしたのだが、シャツの端を璃音が掴んでいたのに気がつき、そのまま隣に横になった。  16歳になっても、龍嗣の服を掴んで眠る癖は変わらない。  まだ体を繋ぐ事には抵抗があるようだが、こうして甘えを見せてくれるのが嬉しい。 「堪え性の無い私が待つ事を覚えたのも、全部璃音のおかげだな」  クスクス笑い、龍嗣は璃音の髪を指で梳く。  暫くの間、優しく撫で梳いてやりながら、龍嗣自身もトロトロと眠りに落ちていった。

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