420 / 454
・
季節は少しずつ移ろいでいく…。
春になり。
リハビリも一段落し、退院を許され…。
体調が安定してきた。
夏になり。
予定が延びてしまっていた大学へのシフトも完了したのだが、璃音は高等部への進学もした。
学力的には問題が無かったため(学園側から出されていた膨大な量のレポートを出した事もあり)、元々のクラスメートと同じ、二年生クラスへ編入をした…。
秋になり。
懐かしいメンバーとの学園生活にも慣れて。
修学旅行にも参加する事ができた。
冬になり。
学園祭…。
そして。
璃音が目覚めて一年が経ち…。
再び春になり。
璃音は高等部の三年生へ進級し…。
夏になった…。
「お帰り、龍嗣…っ」
階段を駆け降りてきた璃音が、龍嗣を出迎えた。
「ただいま、璃音。」
頭を撫でると、蕩けそうな、それでいて少し辛そうな顔をする。 何も無かった頃は、無邪気に抱きついて唇を重ねたものだが、今は少し違う…。
広げた腕の中に怖ず怖ずと入って来ても、それ以上はしない。
…いや、できない………。
寄り添う背中に手を回すと、途端に体が硬直してしまう。
「あ……、ご、ごめんなさい…っ」
「いや、いいよ…璃音」
こめかみに口づけを落とし、腕の中から解放する。
「璃音が元気でいてくれたら、今はそれでいいんだ」
「……………」
申し訳なさそうにするのは、訳があった。
瑠維の一件から、未だ二人は体を繋いでいないのだから…。
回数は減ってきてはいたが、夜になるとフラッシュバックを起こし、パニックに陥ったり、過呼吸になったりする。
それは、璃音が龍嗣を受け入れようと無理をした時に起きる事が多かった。
龍嗣はそれに気づいていたから、璃音の心の傷が癒えるまで待つ気でいたのだ。
…心の傷は、容易に塞がるものでは無いから…。
原因の一つ、事件現場の氷室邸から引っ越し、同じ市内にある別邸で暮らしているのだが、なかなか改善には至っていない…。
そんな日々の中、璃音の父である晶からメールが入った。
「荊櫻と赤ん坊を、助けて欲しい」
……………と…。
ともだちにシェアしよう!