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 ヘリポートから外科総合棟へと龍嗣と璃音は通された。  その間にも、手術の要領や胎児の状況が伝えられる。  人工子宮を操作するのは二人。  胎児を受け入れつつ、微調整を担当するのが璃音の役割で、素早くカテーテルを入れて肺動脈を広げるのが、小児外科の医師。  璃音と医師がタイミングを合わせる必要もあるようだ。  そんな中、璃音はビクリと身を震わせた。 「れ…い………」  小児外科チームの医師達の中に、小鳥遊を見つけたのだ。  少し面差しが変わっているが、間違いなく彼だった。 「……うす」  小鳥遊は、懐かしいような、それでいて複雑な表情を浮かべて歩いてきた。 「璃音さん、彼がカテーテルを操作する医師の小鳥遊です」 「………」 「璃音さん?」 「………あ、はいっ、すみませんっ」  弾かれたように振り向いた璃音を、外科部長が怪訝そうに伺う。 「手術は30分後から調整を始めます。  これから小鳥遊と人工子宮の調整に入っていただき、璃音さんには胎児とのシンクロ率を上げて貰わなければいけません。  小鳥遊がバイタルラインを確保しながらカテーテルを入れている間も、胎児にとって最適な環境にしておく必要があるんです。  璃音さん自身もある意味シンクロする必要がありますので、精神的にぶれたりなさらないようにしていただきたい。  ………出来ますか?  いや、出来なければ、困るんです」 「…………」  心臓がドクリと跳ねた。  正直、ほかの医師なら出来たかもしれない。  璃音の中に克服しきれない、瑠維への恐怖。  その瑠維と深い関係にある小鳥遊と同調するというのは、正直不安が残る。  しかし、璃音と対のオペレーターとなったという事は、小児外科チームの中で最も腕が立つという事だ。  自分の我が儘や事情で、きょうだいを危険に晒す訳にはいかない。  恐怖感や、嫌悪感を抑えなければ、今回の計画が最悪の結果へ繋がってしまう。  それだけは避けたかった。 「出来ます。  ただ、条件をつけさせてください」 「条件?」 「はい。  シンクロコントロールブースには、僕だけでなく、龍嗣を同席させてください」 「は………?」 「でなければ、僕は最悪の結果を引き寄せてしまいかねません」  それが璃音の選んだ策だった。

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