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カクカクと震える手。
冷や汗が背中を流れ落ちていく。
「………璃音…っ!?」
青ざめた顔に気づき、龍嗣は後ろから璃音を抱きしめた。
視線を上へ向けると、晶が瑠維を下がらせている。
「晶を見ようとして、瑠維と視線が合った訳か…」
内心舌打ちしつつも璃音の目許を手で覆い、視界を遮断する。
シンクロゲージはまだグリーンの位置だが、これ以上下げる訳には行かない。
だが。
焦ってはだめだ。
何かが頭の中で警鐘を鳴らしている。
息を深く吸う。
命じるのか、囁くのか。
最初で最後の克服するチャンスなのだから…。
『命じたら、璃音の克服の機会は無くなる。
しかし…、ただ声をかけるだけで引き戻せるだろうか…』
自信は無い。
だが、それを出来るのは自分しかいない。
「……………璃音」
ドクドクと逸る鼓動を無視しながら、龍嗣は璃音の耳元へそっと唇を寄せた。
「璃音」
ビクリと華奢な体が震える。
「璃音。
私の声がわかるか?」 カクカク震えながらも、ゆっくり引かれた顎。
「今、君がしなければいけない事はなんだ?」
「…きょ…うだいを……助ける……」
「そうだ。
過去の亡霊に囚われている場合じゃない。
いま、成すべきことをやり遂げる。
…違うかい?」
「…違…わない。
僕がしなきゃ…いけないこと…」
「そうだよ。
璃音だけに任された仕事だ。
さあ…、呼吸を整えるぞ。
鼻から息を吸う」
…す………う………。
「口からゆっくり吐き出す」
……は……ぁ………。
「もう一度。
鼻から吸う」
すう…………っ。
「口から吐く…」
はぁ…………っ。
小刻みで激しかった呼吸が、少しずつ元に戻っていく。
そうっと目許から手を離し、ゆっくり龍嗣は囁いた。
「ゲージは、まだグリーンだよ。
さぁ、続きをしようか」
「……うん」
事態を見守っていた全員に、安堵感が戻った。
「君なら…、いや、君にしか出来ない事をしよう」
「ん。
出来る。
僕は、出来るよ」
漆黒の瞳が輝き、コンソールの上を滑らかに手が滑っていく。
向かいにいた小鳥遊も、泣き笑いのような顔をしている。
ゲージはグリーンへ戻っていき、赤ん坊の状態がより安定していった。
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