429 / 454
・
赤ん坊を格納した人工子宮が新生児集中治療室へと運ばれて行き、三人も手術室から出た。
手術着から無菌室用の白衣に着替えて、新生児病棟へと向かう。
龍嗣は廊下で待つ事になり、璃音と小鳥遊は新生児集中治療室へと入った。
先に運ばれて来ていた赤ん坊は保育器に入れられており、気持ち良さそうに眠っている。
隣に置かれた人工子宮の中では、小さな赤ん坊が小さな手足を動かしたりしているのが見えた。
担当医師からは、二人とも状態は安定しているとの説明を受け、璃音は胸を撫で下ろす。
保育器のプレートには「水上荊櫻ベビー②珊瑚ちゃん」と書かれている。
よく見れば、人工子宮のディスプレイにも、「水上荊櫻ベビー①琥珀ちゃん」と表示されていた。
二卵性の双子だったそうで、琥珀は男の子、珊瑚は女の子だという。
「ふふ…っ。
どっちもかわいいな…。
琥珀……、僕にとっては初めての弟になるね。
ちゃんと心臓は治るから、大きくなったら、沢山かけっこしようね。
珊瑚は、お兄ちゃんとお姉ちゃんが沢山いるから、甘ったれになりそうだ…」
小さな弟妹を見ていると、何となく胸がほっこり暖かくなったような気がする。
その後、日に二度、人工子宮のメンテナンスを行う事や、操作手順についての変更箇所を打ち合わせ、経過観察をしている小鳥遊を残し、璃音は席を外すことになった。
「すみません。
琥珀と珊瑚をよろしくお願いします」
会釈をすると、医師や看護師たちが手を振ってくれた。
NICUを出ると、廊下で龍嗣と父が立っていた。
「ただいま」
「おか…え…り」
涙を堪えていた晶がボロボロ泣き出したため、二人で背中を叩いて宥める。
復調していないのに引きずり出してしまった事を、何度も悔やんだのだろう。
手術の最中も、苦しそうな顔で見ていた。
「お父さん。
もう、気にしなくていいよ。
僕はもう、大丈夫だからね?」
笑って見せると余計に泣き出してしまい、再び二人は宥めることになった。
そして。
穏やかに微笑む龍嗣が指差した先には…。
複雑な面持ちをした弓削と、涙を堪え切れずにボロボロ涙を零している瑠維が立っていた。
ともだちにシェアしよう!