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さやさやと、涼やかな風がカーテンを揺らす。
切なげに鳴く蜩の声も、少しずつ減ってきた。
そんな夕闇の中、龍嗣は深い眠りから覚めた。
『いつの間に寝てたんだ…』
腕の中で眠る華奢な体は、まだ規則的な呼吸をしている。
そんな呼吸に誘われて、いつ寝入ったかも解らないほど自然に寝てしまっていた。
『少し、寒いな…』
腕を伸ばし、足元にあるタオルケットを引き上げる。
二人で包まると、ほんわり暖かくなってきて甘い肌の香りが鼻をくすぐった。
艶やかな髪を指で梳き、穏やかな時間を楽しんでいると…
コンコン。
控えめにドアがノックされた。
「旦那様、起きてらっしゃいますか?」
囁くように小さな声で弓削が呼びかける。
「ああ…」
体を起こし答えると、傍らの華奢な体がピクリと揺れた。
「申し訳ありません。
起こしてしまったようですね」
「構わない。
そろそろ起こさなきゃいけない時間だしな。
璃音…、起きれるかい…?」
「………う……ん……」
優しく揺り動かすと、目を擦りながら起き上がる。
「璃音様、夕食が出来ましたので、旦那様と降りて来てくださいね?」
「うん…」
殆ど開いてない目のまま、ゆっくり頷く。
「隣のご主人から、沖縄直送のスナックパインをいただきましたので、マリアージュのアイスと合わせてお出しできますよ、璃音さま」
「…………ほんと…?」
「ええ。
昨年庭で採れたブルーベリーのジャムも上出来でしたから、そちらもアイスにしておきました。
来ないと、瑠維に食べられてしまいますが…」
「…おきる……」
パチリと瞼が開いたのを見て、龍嗣も弓削も噴き出しそうになる。
相変わらず、冷たくて甘いものに目がないらしい。
ヨタヨタしながらもベッドから降りた。
「顔、洗っていくから待ってて…。
ちゃんと行くから」
「はい。 お待ちしておりますね」
よろけながらも洗面所へ向かう姿は、中学生だった頃とあまり変わらない。
張り詰めたような雰囲気が抜けた分、よけいにそう思える。
戻ってきた穏やかな時間を楽しむ夕飯になりそうで、弓削も龍嗣も、そして璃音も、沸き立つ気持ちを感じながら階段を降りていった。
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